赤い電車

洗拓機

赤い電車

 赤い電車の急行が過ぎて行く度に、心の奥底がズキンと痛む。あの夏の出来事は、私にとってとても大切な思い出だった。



ー「このまま朝になってもいいね」


 そう言って、山の上にできた住宅街の公園で二人で話していた。他愛のない話をずっと、ずっと。何を話しても楽しくて、時が止まればいいと本気で思ってしまいそうなほどの日だった。


 終電が近くなり、駅に渋々向かう二人。本当はまだ帰りたくなかった。次いつ会えるかわからない。電車で2時間の二人の距離は、当時はとても遠く感じていた。


 反対ホームの私をわざわざ電車に乗るまで送るよ、とキミが言うので誰もいない駅で電車を待っていた。ほぼ終電だったが、まだ俺の方は電車があるから、と送ってくれたのだ。


 二人は付き合っているわけでもないが、お互いがお互いのことを好きなのをわかっていた。お互いの口から好きだと発信していたが、距離が二人の邪魔をしていた。


 ホームに赤い電車がつくと、誰も乗っていないフカフカの椅子が並ぶ。電車に乗り込んだ私は、思わずキミの腕を引っ張って電車の中に乗せた。慌てたキミは「電車がなくなっちゃうよ」と優しく笑った。


 発車のベルが鳴ると、キミは諦めたように椅子に座る。私もその隣に座って、終電までキミの肩に頭を預け、寝たふりをした。


 かけがえのない、二人だけの時間がゆっくり流れる。車窓からは真っ暗で何も見えなくて、寄り添った二人の姿を映し出す。


 最終地点で乗り換えをして、私の家まで向かう。キミは絶対車道側を歩いてくれる。キミの横で笑っていられるだけで幸せだった。


 あれから大人になった私達は、初めて身体を重ね合わせた。その時点で分かっていた。もう昔みたいには戻れないってこと。私には私の、キミにはキミの人生があったから。それでも私は君の隣にいれることが幸せだった。


 でも、もう私達は友達にすら戻れなくなった。


 私は今でもキミがいたこの街でキミを探している。赤い電車に乗りながら。

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