第312話クラウスとクロエの結婚式~クロエの妊娠~




 春の終わりが近づいてくる頃、クラウスさんとクロエさんが我が家を訪ねてきた。

「どうしたんです、クラウスさん、クロエさん」

「実は結婚することにしたのです」

「おお、おめでたいですね!」

「ただ、そうすると私が今住んでいる家が空き家になってしまうので……」

「あー大丈夫です! クラフト能力で簡単に解体できますよ」

「それなら良かったです」

「で、式はいつごろ?」

「1週間後くらいを予定しているので、ドレスを愛し子様に頼めばいいとエンシェントドラゴン様が……」

「私は結婚式で着る服は既にありますので」


 クラウスさんは持ってきたものか、クロエさんには結婚式を忘れられないような素敵なドレスを着せてあげたいなぁ。


「うん、把握。どんなドレスを着たいですか?」

「黒のドレスを、夜真珠に似合うようなドレスを、あとお腹周りをゆったりとさせて」


 なんでお腹周りをゆったりとさせるんだろ?

 まいっか!


「どんなネックレスを」

「こちらです」


 大粒の夜真珠が目立つネックレスだった。


「了解です、ではデザインができたら呼びますので」

「はい」


 見つめ合う二人、手には既に夜真珠の指輪が輝いていた。

 そう言えばヴェロニカさんたち吸血鬼の方達と伴侶の方は左手の薬指によく夜真珠の指輪してるな。

 吸血鬼関係の方は夜真珠のものをつけるのが何か大切なんだろうか。





「と言う訳で聞きに来ました」

「そう言えば愛し子様は吸血鬼だが吸血鬼のことに疎いのでしたな」

「はぁ」

「夜真珠と白金でできた指輪が吸血鬼と契るものの婚約指輪であり、結婚指輪でもあるのです。銀類は我らには毒ですし、金は太陽を意味する、白金は月を意味する為この二つを使うのです。」

「へぇそうなんですか」


 そういや、音彩とカイル君のブレスレットも白金と夜真珠で作ったな。

 と、今更ながら思い出し。



 そうして、一日でデザインを複数仕上げ、その内の二着を着ることに。





 そして、結婚式当日──

 ベアトリーチェさんが神官さんのような立場に依頼で立てていたネロ神様の教会で二人は誓いあった。

 ただ、ちょっと誓いの内容が違った。

 クラウスさんへの誓いの言葉が──


「クラウス、其方はクロエを健やかなるときも止める時も、老いた時も、彼女を愛し続けると誓うか」

「はい、誓います」


 だった。

 そうだよね、クロエさんは吸血鬼にならないのを選択したらしいんだもん。

 クラウスさんもその選択を認めたんだもん、クロエさんだけ老いちゃうよね。

 そうだよね。


 指輪の交換をして、誓いの口づけをして皆に祝福された。

 で、その後は村主催の食事会。

 クラウスさんは初めて見るブラッドフルーツを使った料理に目を丸くしている。

 フフフ、普段ブラッドワインしか飲まんからだ。

 ハハハハ、この20年間の間に頑張って作った料理だ、食え!

 ブラッドワインもこの日の為にいつも以上の極上品だ!

 飲め!

 ふはははははは!


 とか、心の中で思ったりしていると──


「梢、お前キャラが壊れてるぞ」

「人の心の中を読むな!」


 クロウにツッコまれて焦った。


「取りあえず、私クラウスさんとクロエさん新郎新婦の所に行ってくる」

「我も同行しよう」

「私も!」

「私も……」

「私もです」

「私達もよいか?」

「……うん、いいよ」


 本当は家族総出で行くのは失礼だとおもったんだけど、皆に言われたら拒否はできない。

 ので皆で行くことに。


「あれ、なんか食べて居る料理が偏っているけど、どうしたの? クロエさん」

「実は式を急いだ理由の一つなんです」

「?」


 首をかしげる私。


「もしかして赤ちゃんですか?」

「ええ、そうなの」


 音彩の言葉にクロエさんは嬉しそうに頷きながらゆったりとしたドレスのお腹を撫でる。


「ああ、だから要望にお腹周りをゆるく、って」


 今気付く私。

 鈍すぎる。


「クロウは知ってたの」

「当然だ」

「うっわ、気付かないの私だけだった可能性大? 恥ずかしい!」


 顔を覆う。

 恥で死ねる。


「残った物は皆さんが持ち帰るらしいので……」

「ああ……」


 だから食べられない・・・・・・ものには手を完全につけないんだ。


「ブラッドフルーツの料理、どれも美味でした」

「それは良かったです」

「全部、コズエ様が開発したと?」

「まぁ、そうなりますね」

「ありがたいことです」


 クラウスさんにお礼を言われた。


「いえいえ……それよりも、クロエさん。お体をお大事に」

「お気遣い感謝します、コズエ様……」


 そう言ったクロエさんは愛おしそうにお腹を撫でていた。


「正妃だった時、夫は側妃の閨ばかりに行って私はいつも一人。子どもが欲しくても抱くこともできない、側妃は早々に子どもを授かったのに、それでも私は許されなかった、ただ仕事をするだけの道具として扱われた……」

「クロエさん……」


 つくづく思うけど、元国王と元側妃最低だな。

 クロエさんの心を踏みにじって。


「だから、今とても幸せなんです。お腹に愛する人の子がいる、少しずつ大きく成長するそれが待ち遠しいのです」

「クロエさん……」

「有り難うございます、コズエ様。私を森に迎えてくださり」

「いえ、森に来る選択をしたのは貴方です、来てくれて有り難うございます」


 そう言って手を握り合った。





「クロエさんの赤ちゃんかぁ、美女と凜々しい男性だから可愛い子が産まれるだろうなぁ」

「コズエ、自分は可愛くないとか思ってないだろうな」


 ぎくり。


「そ、ソンナコトナイヨー」

「……お母様、嘘くさい」


 音彩、頼むから黙ってて!

 褒め殺しは勘弁なんだよ!


「おい、梢。クロエからマタニティドレスの注文が来たぞ」

「おっと仕事だ、やらなくちゃ!」


 私はそう言ってクロウの手から依頼書を受け取ると──


『少しは学習せんか、まったく』

『ごめん!』


 クロウに助けられたのを理解し、私は仕事場へと向かった。





「お前達、梢が可愛いよりの美人なのは重々承知だが、本人はそう言われたのは親と祖父母だけだから、へちゃむくれにしか受け取れんのだ」


 クロウは梢の家族達にそう言って宥めた。


「く、まだまだ直るのは遠そうだ……」

「直したい気持ちは分かるが、褒め殺しにすると彼奴はよりだめになる、だからさりげなく言うのを心がけろ、一歩ずつすすめ、できるだろう?」

「「「「「「……はい!」」」」」」

「ならいい」


 クロウはそう言って家を出て息を吐いた。


「全く梢は愛されてるのを理解してるのに、自分へのマイナスが強すぎるな」


 と、あきれた様に言った──






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