第313話21年目の夏~国として、そして子どもたちへ~




 クラウスさんとクロエさんの結婚式から少しして、ドミナス王国とムーラン王国から手紙が来た。

 どっちもいつものような内容だった。

 私はそれにいつものように返事を書いて、クロウに見せて添削してもらって手紙を持って行って貰う。





 そして、夏が来た。


『夏ですよー!』

『夏です!』


 夏を司る妖精と精霊たちが飛び交っている。


 そしてやって来る、馬車たち。


「皆様よくいらっしゃいました! 歓迎致します」

「愛し子様、お出迎え感謝を!」


 マリア様が下りてきて話しをする。


「新しい住人が増えたんですよ、二人」

「ほほう、良きことだ。こっちはフィリアーネ王国が革命で元国王と元側妃が幽閉され、子どもは教会に預けられるということになっていて大変な中新国王達が我らと交流を築いているからな」

「あー……」


 これ、クロエさんと合わせたら不味いんじゃね?


 とか思って居たら。


「正妃マリア様⁈」

「正妃クロエ⁈ 貴方が何故ここに?」


 うわーあっちゃったよーどうしよう。

 とか思って居たらクロエさん、悲壮感もなく、淡々とここに来た理由を述べた。


「──ということです」

「国王と側妃が愚かなのは知っていたが、まさかここまでとは。処刑されずに済んでいるのが不思議だ」

「兄が『私の苦しみを味わう事無く死ぬなど許さない』と……」

「そう言えば其方の兄は正義感が強かったな、我が国は正妃と側妃を持つのが代々慣わしだが、そちらはそういうのが無かった中で、恋愛脳の王太子の所為で本来婚約者だった元正妃である貴方がないがしろにされた訳だ」

「兄は何か言ってましたか?」

「元国王も、元側妃も、今更になって後悔してるし、子どもを取り上げられたからせめて子どもを返してと元側妃が泣きわめいているが国王が許さないと言っている、正妃だった我が妹の苦しみを味わえと」

「兄様、それではもう復讐ですわ」

「本人もそう言っていた」

「兄様……」


 クロエさん辛そう。

 そりゃそうだ、今お腹に子どもがいるんだもの。

 子どもと引き裂かれるなんて可哀想だと思ってしまうだろう。


「マリア様、マリア様」

「ん?」


 私は小声でマリア様に話しかける。


「クロエさん、この森で夜の都から来た吸血鬼のクラウスさんって方と結婚したんですよ、そして妊娠してるんですよ」

「……失態だ、妊婦に聞かせる話ではなかったな」


「コズエ様、どうにか兄を説得できませんか、母子が引き離されるのはあまりにも辛いことです」

「え、えー⁈ えーとクロウ⁈」

「聞いていたぞ、お前の兄をどう説得して欲しい?」


 クロウがどこからともなく現れて、クロエさんに尋ねる。


「側妃──アリーナと子どもを引き離すのを止めて欲しいと、愚かな願いなのは分かって下ります、それでも幼子と親が引き離されるのには耐えられません」

「よかろう、では言ってくる」


 クロウはドラゴンの姿になって飛んで行った。

 クロエさんは祈るような体勢をとっている。


 子どもと引き離される苦痛は私も想像したくない。

 だから、音彩が狙われている時は気が気ではなかった。


 気持ちは分かる、子どもを愛している母親だから。


 ちゃんとした愛情を持って、愛しているとか言われれば少し不安。


 子ども達が、晃や肇、音彩の未来の枷になっていないか不安ではある。

 晃達は外の世界にあまり興味がない。

 私がそうだったから、それを当然だと思っている。

 今からでも外へ出すべきか?


 でも、吸血鬼とダンピールは生き辛い世界だ、この世界は。

 そんな世界に出して傷ついたらどうしよう。


 不安が山ほど出て来た。

 私はため息をつく。


「コズエ様? どうなされました?」

「いや、この世界は『飲まず』でも吸血鬼とダンピールに厳しい世界だなと……」

「……そうですね」

「ウチの大きい子ども達は外の世界に全く興味がないのです」

「え、そうなんですか?」


 クロエさんが驚いている。


「ええ、母である私が引きこもって畑仕事とかしてるのしかみないから、外の世界に行くという考えがないのでしょうか」

「それはないと思います、コズエ様一人が原因ではないかと」

「ならよいのですけど……」


 そんな親と子の話をクロエさんと色々していると、クロウが戻って来た。


「クロウお帰り、どうだった?」

「取りあえず、これだ。クロエ受け取れ」


 クロウは元の姿に戻ってアイテムボックスから贈り物らしきものを取り出した。


「こ、これは?」

「お前の兄と兄嫁がお前の妊娠と聞いて急ぎで用意したものだ、後日森に送りに行くと言っていた」

「兄様ったらもう……ところでその」

「現王妃も思う所があり、国王を説き伏せたが、まぁ子どもの面倒を見れるのは監視の目がある時だけ、それ以外は引き離されるし、年を重ねたら二度と会えなくはなるだろう」

「……それが妥当でしょうね」

「どういうことですか?」

「新たな革命の火種になりかねないのですよ、元国王──レオニウスとアリーナの子は。本来なら処刑されるべきが妥当と言われる程です」

「え゛」


 私の顔が引きつる。

 子どもが火種?

 どういうことだ?


「今の国王への不満はないが、それ以降の国王へ不満が出た場合、その子どもが革命の象徴となってしまう恐れがある。革命が何度も続けば国力も衰退する」

「だから、本当に兄には私の言葉は煮え湯のような物だったでしょう」

「……」


 王族って大変。

 本当それしか言えない。


「そういえば、クロウ様。コズエ様の御子様が外に興味がないのは何故でしょう」

「あやつらが自分で選んだのだ、何処に行っても穏やかに暮らせぬのなら意味はないとな」

「……」


 やっぱり私の子どもってところが大きいんだろうなぁ。


「それに、梢のことを気にしている。親の死に目に会えないのは絶対嫌だとな」

「はははは……」


 乾いた笑いを浮かべる。

 私は元の世界にいる、母の死に目に会うことができるんだろうか。


 少しだけ不安になった。


『あんしんせーよ、その時が来たら連絡するからのー』


 オウフ、神様あざっす。


 問題は、その時まで心構えができているかだ。

 21年も経ってるからお母さんも老人といっていい年齢のはずだ。


「梢、いろいろと思うことがあるだろうが、お前には神々がついている安心せよ」

「あ、うん」


 と、返事を返すしかない。





「はぁ……」


 家に戻りため息をつく。

 なんか今日は調子が悪い。

 あんまりな内容を聞いたのが原因だろう。


 やっぱり外の世界は怖い。

 子ども達に出て欲しくない、私の我が儘でも。

 だって、いいように使われて、いいように殺されるのが目に見えているから。



 はじめて吸血鬼であることが、いやだなぁと思った。






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