第311話クロエの兄の来訪~思いを告げる~





 フィリアーネ王国で革命が起きたと聞いた二週間後。

 見慣れない馬車がやって来た。

 子どもたちをアルトリウスさんたちに任せて出ると、クロエさんが乗ってきた馬車によく似た馬車だった。


「クロエという女性はいらっしゃるだろうか、愛し子様。エンシェントドラゴン様」


 出て来た男性はどことなくクロエさんに似ていた。

 髪の毛も黒く、目は緑だし、肌も色白だし。


「はい、おりますが」

「話をさせていただきたいのです。中にいれていただけないでしょうか?」


 私はクロウを見る。


「入れてやれ」


 クロウが小声で言うので小さく頷き。


「どうぞ、こちらです」


 そう言って来賓の館に案内する。


「クリフトが来たと」

「わかりました」


 私は役所へ行きクロエさんを呼ぶ。


「クロエさん」

「コズエ様、何でしょう?」

「クリフト、という方がクロエさんをお呼びです」

「兄様が⁈」


 クロエさんの兄さんだったのか、やっぱり。

 クロエさんを来賓の館に案内して──


「兄様、どうして来たのですか?」


 クロエさん、困惑してる。


「クロエ、この森での暮らしはどうだ? 不自由してないか?」

「いえ、不自由は何一つしておりません」


 クロエさん、きっぱり言った。

 よかった、不自由してないなら嬉しい。


「政略結婚とは違い、自分を大切にしてくれる相手は見つかったか」

「……はい」


 おおーやっぱりクラウスさんか。


「その人物は信用できるか?」

「その方は飲まずの吸血鬼です」

「飲まずの……会わせて貰えるか?」

「あ、呼んできましょうか?」

「コズエ様、お願いします」


 私は役所にいるクラウスさんを呼びに行く。


「クラウスさん、クロエさんのお兄さんがいらっしゃってお会いしたいと」

「……なんでしょうね?」

「さぁ」


 来賓の館にクラウスさんを連れて行く。


「呼んできましたー」

「私のことでしょうか?」

「貴殿が飲まずの吸血鬼、クラウス殿か」

「はい、そうです」

「我が妹クロエをどう思っている」

「努力家で、一途で、ともに歩んでいきたい、死が分かつまで一緒に居たい程愛おしい存在です」

「不幸にしないと誓えるか?」

「貴方が誓えというなら誓いましょう、クロエさんを不幸にはしません。私達は共に幸せになります」

「……貴殿は信用できるようだ、妹を、クロエを頼む」

「はい」


 クラウスさんとクリフトさんの会話はそれで終了。


「クロエ」

「はい、兄様」

「今度こそ、幸せになるんだぞ」

「……はい!」


 クロエさんは涙ぐんでいた。

 そりゃそうだよね、正妃時代にないがしろにされてきたんだもん。

 正妃なのに。


「兄様は……」

「私が国王としてフィリアーネ王国を統治している。こう言う時王族の血を引いているのは役に立った。あの愚か者達は幽閉し、自分の罪を分からせている所だ」

「……」

「お前が気にすることではない、あの愚者達は国を衰退させていったからな、クロエお前に全て任せていたから役立たずだったのだ」

「兄様……」

「妻と子には苦労をかけるが、納得してもらえたよ」

「兄様たちも、どうか、どうかお幸せに」

「ああ、ありがとう、クロエ」


 そう言ってクリフトさんは帰って行ってしまった。

 ただ、クロウと帰る前に何か話していた。


「何話していたの?」

「他の国がこの森と交易をしているからできないか検討して欲しい、とな」

「へー」

「お前はどうしたい?」

「よくわかんないからクロウに任せる」

「分かった」


 難しいことはクロウに任せる。

 私はいつも通り畑仕事と家庭のことでだいたい大変。


 畑仕事を終え、家で家族とホットミルクを飲んでいるとチャイムが鳴った。


「はーい」


 玄関に出るとクロエさんだった。

 顔を真っ赤にしている。


「こ、コズエ様。今よろしいでしょうか?」

「あー、はい」


 そう言うと子ども達は弟妹達を連れて上の階に。

 アルトリウスさんは紅茶を二人分いれて、三人とも上に。


「お砂糖どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 砂糖を一個入れてクロエさんは紅茶を口にした。


「クラウスさんと何かあったんです?」

「あの、兄との会話での情熱的な言葉に戸惑ってしまって」

「あー」

「あそこまで情熱的に私を思ってくださっていたなんて……」

「嬉しいじゃないですか」

「……正妃時代そんな言葉を言われたことが無いので……」

「あー……」


 免疫がない、ってことか。


 何か元国王と元側妃めっちゃムカつくな。


 私は、クロエさんの手を握り言う。


「クロエさん、だからって避けたり逃げちゃだめですよ。クラウスさんに失礼です。それにクロエさんもクラウスさんが好きなのでしょう」

「……はい!」

「なら、思いを伝えればいいんですよ、クロエさんも」

「はい!」


 クロエさんは笑顔になって頭を下げてお礼を言ってから、玄関を出て行った。


「若いっていいねぇ」


 青春している感じのキラキラオーラを纏っているクロエさんを見て呟く。


「コズエ、気にしてるのか」

「流石に40歳すぎたら、ねぇ」


 アラフォーどころかアラフィフに片足突っ込んでるんだもの。


「吸血鬼ならまだまだ若い方だ」

「そう?」

「クロウ様から見ても若いですよ」

「クロウからみたら誰でも若いでしょう」

「それ位些事なことなのですよ、コズエ様」


 夫達が言うけども、納得がいかない。

 だって人間だとかなり年をくっているはずだ。


「お母様」

「なに、音彩」

「お父様達がいってますよ、お母様はいつでも元気で美しいって」

「あははは、私みたいなへちゃむくれ……」


 と言いかけて口を塞ぐが時すでに遅し。


「これは褒め続けなければならないな」

「ええ、そうですね」

「はい、そうですね」

「晃、肇、分かってるわね?」

「勿論」

「当然」


「ひぇえええ……」



 それからその日は夜遅くになるまで褒められ続ける羽目になった。

 とほほ、口は災いの元だよ本当。

 もうちょっと気をつけてれば……






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る