第310話亡命してきた正妃~運命の出会いと革命~




「コズエ様、コズエ様」

「んあ?」


 夕刻より少し前に、棺桶の蓋を叩かれて起きるとシルヴィーナが居た。


「ふぁーあ、シルヴィーナどうしたの? 来客?」


 私は寝ぼけているのを目覚めさせるために、近くに置いていたブラッドワインを口にする。


「来客というか、逃亡してきた方です。もっと正確に言えば亡命してきた御方です」

「どんな人?」

「フィリアーネ王国の元正妃です」

「ぶっふぉ!」


 飲んでいたブラッドワインを吹き出し咳き込む。


「せ、正妃様だって⁈ 何で正妃様がこんな森に⁈」

「いま、来賓の館におりますのでお会い戴けますか」

「勿論」


 私は大急ぎで来賓の館へ向かった。





 私が到着すると既にクロウが居た。


「クロウどうして正妃様がこんなところに一人で来たの?」

「それはだな……」





「人のこと言えないけど、最悪だわ。その国王と側妃。仕事とか外交全部正妃様一人に投げて自分達はいちゃついて子どもまで作って、ふざけんなって話だよ」

「大丈夫だ梢。お前はそいつらとは違う、自分ができることをやっている」

「ならいいんだけど……」


 要約すると、国王と正妃様意外に側妃がいたらしい。

 国王は政略結婚である正妃様より恋愛対象の側妃を溺愛。

 仕事や外交を全て正妃ひとりに任せていた、正妃様は最初はやっていたらしいが、あまりのないがしろっぷりに我慢がきて離縁を突きつけ、出て来たらしい。


「もう、帰ることはありません」


 正妃様の──いえ、クロエ様の決意は固かった。


「分かりました、クロエ様」

「ならクロエ、丁度いい。仕事が欲しいと言っていたなら役所に来てくれ」

「はい、エンシェントドラゴン様」



 そこから私も役所に着いていった。

 そして、そこにはクラウスさんとレイヴンさんたちがいた。


「仕事仲間が増えるぞ、クロエと言う」

「どうぞ、宜しくお願いします──」

「こちらこそ宜しく──」


 クロエ様とクラウスさんの目が合う。

 二人の顔が赤くなる。

 あれ、これはもしや二人とも一目惚れ?


「──仕事はかなりあるから頼むぞクロエ。何せ梢は書類仕事はからきしだ」

「一言余計なの!」


 私はクロウの脇腹に肘鉄をくらわした。


「私は、クラウス・アエトスと申します。夜の都から来ました」

「夜の都というと吸血鬼なのですか?」

「ええ」


「あー私も吸血鬼ですよークロエさん」

「え」

「ここの吸血鬼とダンピールはブラッドワイン関係しか口にしない『飲まず』だ。最初は戸惑うと思うが慣れろ」

「……はい! 『飲まず』の方々なのでしたら、怖がるのは失礼というものです!」


 クロエさん、前向きだなぁ。

 ここではないがしろにする人おらんから元気に暮らして欲しいな。





 クロエさんは人の区画に一軒家を建てて暮らし始めた。

 けど、クラウスさんと家を行き来して交流している。

 仲良く手を繋いでいるのを村人が目撃しては温かい目で見守っているそう。

 あと、クロエさんの仕事っぷりは凄い。

 さすが国のお仕事一人でやっていただけはある、とクロウが言った。

 そう言えば、クロウがクロエさんが居なくなったフィリアーネ王国の様子見に行ったけど、かなり大変なことになっているらしい。

 まぁ、いっちゃ悪いけど国王は何とか仕事ができるレベルだけど側妃は全然仕事ができない。

 そんな二人がクロエさんがこなしていた大量の仕事や国とのやりとりの手紙を書くなんてできる訳がない、みたい。

 結果国中で不満が噴出。

 クロウはクロエさんが森に来た事も言わなければ、手助けする言葉なども言わずただ見てきただけらしい。


「愚かな王と妃では国民が哀れだ」


 とだけ言っていた。

 それと、


「革命が起きるのも時間の問題だろう」


 とも。

 クロエさんには聞かれない限り聞かせないらしい。

 それはそうだよね。



 クロエさんはクラウスさんと仲良く会話をしている。

 村をよくするにはどうしたらいいかとかクロウも交えて話をしている。

 村の最終決定権は私にあるのとクロウが居るのでクロエさんたちは、クロウから許可を得て私に助言をくれる。



「クラウス、クロエ、調子はどうだ」

「クラウスさん、クロエさん、どうです?」

「ええ、交易関係が特にやりがいがあります」

「そうですね」

「そろそろ私はドミナス王国などに向かいますので……」

「じゃあ白亜に護衛を任せるね」

「ありがとうございます」


 そう言って、レイヴンさんたちはその日のうちに魔道保管庫……アイテムボックスモドキというか人工のアイテムボックスをもって出掛けていった。

 夜の都にはいる為の夜真珠のがはめられた手形をもって。


 これからはアエトス一族が統治する夜の都も交易の地域に入ることになる。





 さて、そうこうしていると、クロウがまた見てきたらしい。

 フィリアーネ王国を。


「革命が起きたぞ、国王と元側妃現正妃は幽閉された、処刑するかどうかを決めている最中らしい」

「誰が後釜につくの?」

「王族の遠縁の公爵……クロエの兄が国王になることになった、そして兄の妻が正妃に」

「クロエさん、王族の遠縁だったんだ」


 クロウの屋敷で紅茶を飲み、クッキーを食べながら会話をする。


「まぁ、あのままなら幽閉だろうな」

「そうなの?」

「クロエの兄は死んでクロエが受けた苦しみを一瞬で終わらせるつもりはないと言っているし、クロエを正妃にした者達も同調しているようだ」

「クロエさん……」

「それと、国王が側妃を持つのを許した者達は罰として貴族籍を剥奪、もしくは位を下げられるなど罰を受けているらしい」

「まぁ、そうなるわな」


 私は頷く。


 そんな話をしていると、チャイムがなる。


「はーい」


 私がクロウの代わりにでると、クロエさんだった。


「失礼致します……」


 少し深刻そうな顔をして屋敷に入ってきた。


「エンシェントドラゴン様、私の祖国は、フィリアーネ王国はどうなりましたか?」

「それは──」


 クロウは先ほど話したコトをクロエさんに伝えた。


「……クロエさん?」

「兄は穏やかな方なの、その兄が革命を支持するということは……フィリアーネ王国はそこまで落ちぶれたのでしょうね」

「お前が気にすることはない」

「兄は、私が正妃をやめどこかの国に亡命すると伝えると『分かった、だが奴らが反省しないようなら私は動く』と言っていました。きっと二人は──」


 反省、できなかったんだろうね。


「……兄が動いたなら私は何かする必要はないでしょう」

「そうか」

「ただ、この森に骨を埋めるだけです」

「分かった、何かあったら我に言うがいい」

「ありがとうございます、エンシェントドラゴン様」


 クロエさんはそう言って屋敷を出て行った。


 クロエさん、悲しそうだったな。

 いろいろと思うことがあったんだろうな。

 ここで、忘れて欲しいな、癒されて欲しいな。


 そう思うしかできない私だった──






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