第5話
でも会話の後に『そうだった。郁世(イクヨ)さんには息子がいるんだ。お兄ちゃんができるんだぞ』と付け加えたように言ってから、電話を切った父。
兄、か。
兄弟という存在はいなくて、何だか不思議だった。でもお兄さんができるという朗報は母親ができるというよりも嬉しい。仲良くできるといいな。春の訪れに、良い予感がしていた。
――――…それが、間違いだったのかもしれない。
「風鈴、紹介する。お前のお母さんになる轟郁世さんと、お兄さんになる乱くんだ」
目を見開いたとか、口を開けたままだったとかそんなもんじゃない。もう穴という穴は全て開いてしまっていたんじゃないかというくらいには変な顔で彼を見つめていたと思う。
だって、当たり前じゃないか。私の通っている高校は麓(フモト)工業高校。このあたりでも有名な不良校で偏差値は地面につくのではないかというくらい低く、受験では名前さえ書いておけば受かるという噂の高校だ。
ああ、だから頭の悪い私でも入れたのだ。
その高校では喧嘩は日常茶飯事、他校の生徒も時々乗り込んでくるような学校。そして窓ガラスは割れたままだったり、カツアゲがあったり……もう生徒のやりたい放題だ。
唯一、私のクラスが女子科で平和なのだけど、それ以外はまともとは言えないほどの学校だ。
今、目の前で紹介されている轟乱。この男がね、この男こそがね。その恐ろしい学校のトップ様に君臨されている方なのだ。
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