第47話
町に戻ってくると、グレッグは子どもたちを引き連れて冒険者ギルドに向かった。
「おう、グレッグ」
総合受付に座っているギルドマスターのシーザーがグレッグに手招きしながら「どうだった?」と尋ねた。まだ夕方にはなっていないので、ギルド内は空いている。
「怪我もなく無事に終わったぞ。これは使わなかった回復薬だ」
グレッグはマジカバンから薬を出して、冒険者カードと共にシーザーに渡した。
「そうか。……で、なんだよそいつらの顔は」
グレッグの脇から覗いた五つの顔がめっちゃにこにこしていて、そこに得意そうに「す!」と胸を張るリスまで加わっていたので、ギルドマスターは怪訝な表情をする。
「こいつらはなかなか筋がいいぞ。五人でカタコブイノシシを倒しやがった」
「なんだって? っていうか、おまえはまた初心者にイノシシをけしかけたのかよ」
「度胸をつけるのにいい機会だからな」
「そりゃそうだがなあ。けっこうクレームが来てるんだぞ? 初心者なのに無茶振りされたって」
グレッグは肩をすくめた。
「はあん、なにを言ってんだか。あの程度でビビっている奴なんざ、冒険者として長続きしないさ。命を落とす前にやめておけって伝えてくれ」
「グレッグは厳しいからなあ……んで、そいつらはビビらずに一撃くらいは入れられたのか? まだガキンチョなのにたいしたもんだ」
「違うって、ちゃんと話を聞けよ。こいつらだけでイノシシをヤったんだよ」
「そうだぜ、しかもデカいイノシシだぞ!」
「すごい勢いで突撃してきたんだからな!」
ギドとマーキーが、ドヤ顔で言った。
「ギルドマスター、ネズミしか狩れない初心者に巨大なカタコブイノシシをけしかけるやり方は、あまりお勧めできないと思います。本気で死ぬかと思いましたから」
淡々と抗議するのはジェシカだ。グレッグは「いや、だからさ、おまえらならイケるって思ったからさ」とモゾモゾ言い訳をしたが、まんまるい目をしたジェシカに黙って見つめられて「いやその、すまん」おとなしく引いた。
「一度でも攻撃できたら俺が倒して、そのあとイノシシを見せながら指導をしようと思っていたら、こいつらけっこうがんばるんだぜ? で、なにも手を出さないで見守っていたら、とどめを刺したんだ」
「いや、それは無理があるだろう。どうやって倒したんだ?」
「僕がイノシシを釣って、走り回らせたんです」
「す」
肩に乗ったリスも頷く。
トーリは『ヘイトを集めてタゲ取りして倒すなんて、普通の戦法なんですけどね』と不思議に思いながらも、どうやってカタコブイノシシを倒したのかをシーザーに説明した。
ちなみに、ヘイト、つまり魔物の憎悪を自分に集めることで、他の仲間を魔物の攻撃を受けるターゲットにさせずに倒すというやり方で、ゲームで大物を倒す時には定番の戦法だ。
「こんな感じに、比較的楽に倒せましたよ」
にこにこするトーリに、シーザーは「いや待て、おまえのやってることは普通じゃないからな」と注意する。
「カタコブイノシシの突進力は、重さもあるがとにかく速い。それを引っ張り回したってのか?」
「ええと、ウルフの時より全然楽でしたので、これなら一時間走っても大丈夫だなって思ったんですよ。実際はもっと早くバテてくれたから。ねー」
「うん、足がもつれてたよね。そうなれば叩きやすいから、僕たちでも連続攻撃できたね」
「超ビビったけどね!」
「うん、怖かったよ。でも、トーリが目を斬ってくれたからイノシシが攻撃できなくなっていたし」
「足が止まれば俺たちでもイケることがわかったよな」
「トーリが大変だから、あらかじめ落とし穴を掘っておいて、そこに誘導するっているのもいいかも」
「土魔法かー」
わいわい盛り上がる子どもたちに、シーザーは「反省会はよそでやってくれ。じゃあグレッグ、依頼終了だ」と言って冒険者カードを返した。
と、ジェシカがグレッグに言った。
「今回の講習で、とても力がつきました。連携を覚えて安定して魔物を狩れるようになったのは、グレッグ教官のおかげです。ありがとうございました」
ジェシカが頭を下げると、他の子どもたちも「ありがとうございました!」と深く頭を下げる。
「グレッグ教官、これからは教官が教えてくれたことをしっかりと身につけて、冒険者としてがんばっていきたいです」
「教官、ありがとうっす。なんか、すごく、よかったっす!」
「グレッグさんは、さすがはベテラン冒険者ですね。大変有意義な講習を受けることができて、感謝しかありません。ご指導をありがとうございました」
「俺は……いつかグレッグ教官を超えて、初心者講習を新人に勧める上級冒険者になるぞ」
アルバート、ギド、トーリ、そしてちょっと生意気だけど本気で強くなる気満々のマーキーに口々に言われ、グレッグは「なんだよおまえら、よせやい、照れるじゃねえかよ。あと、マーキーは百年はええよ!」と顔を赤くした。
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