第46話

 トーリたちは、草原の魔物を狩りつつ浅いところまで戻って来た。戦闘に慣れて連携をスムースに行えるようになった子どもたちは、ミツメウサギやカマネズミの群れならノーミスで狩れるようになっていた。


 魔物を一撃で倒せるものだから子どもたちも楽しくなり、帰り道でもまったく疲れを見せない。

 グレッグは「くっそ元気な奴らめ。若さってやつだな」と苦笑しながら子どもたちが嬉しそうに拾ってくる魔物をマジカバンにしまった。

 そしてジェシカに「教官、お口が悪いですよ?」と注意されてしまい「すまんすまん」と頭をかいた。


「グレッグ教官、カタコブイノシシはどうしてあんなに固いんですか? コブはともかく、体表がありえないくらいに固かったです」


 ほとんど魔物が出なくなったので、ぶらぶら歩きながら質問タイムだ。トーリはさっそく疑問点をグレッグに尋ねた。


 生き物の身体ならば、いくら皮が固くても剣を突き立てれば毛皮を切り裂くことができる。なのに、イノシシはマーキーの剣もアルバートの槍もほとんど通らなかった。二人とも、ウサギやネズミの身体を貫通させる腕の持ち主にも関わらず、だ。


 魔物は生き物とは違うと言われればそれまでだが、なにか秘密があるのではないかとトーリは考えた。

 

「固いから固いんだろ? そういうもんなんだから仕方ねーよ」


 ギドがそう言うが、アルバートは「どうしてなのか、って疑問に思って原因を突き止めるのが、一流の冒険者になる人の考え方だと思うよ」とトーリを援護する。


「そうだな。ギドは武技の力技で突破しようとするタイプだろう。残念だが、それは効率が悪いぞ」


「ええー、冒険者の人に、鍛錬することが大事だって教わったけど」


「もちろん大事だ。その上で、頭を使うことが必要だぞ」


「頭突きじゃ駄目?」


 皆はかわいそうな子を見るような視線をギドに向けた。


「ギドは知恵のある奴とパーティを組め」


 どうやらグレッグはさじを投げたようだ。


「えー、気を取り直して、だな。カタコブイノシシがなぜ固いのか。トーリはどう推測する?」


「魔法が関係しているのかなって思います。人間も身体強化を使うと防御力が上がりますよね。あっ、イノシシは固いんじゃなくて、攻撃を弾いているんじゃないですか?」


「いいぞ」


「ということは、魔物も身体強化魔法を使っているってこと? 使えるの?」


 アルバートは「なるほどね、死んだカタコブイノシシは、柔らかくなって普通に解体ができる……ってことは、身体強化ができなくなっているから、なのかな?」と予想した。グレッグは「うむ」と頷く。


「魔物が魔法を使うの?」


 トーリが驚くと、マーキーは「おまえ、火を吐く魔物とか氷のブレスを吐く魔物がいることも知らないのか?」と不思議そうに言った。


「そうなの? そんなのいるの?」


「いるよ。ダンジョンに入ると、変な攻撃をしてくる魔物がたくさん出てくるんだよ」


 ジェシカが教えてくれた。トーリは「なにそれ、すごく怖いね!」と顔を引き攣らせた。


(ゲームの中ならともかく、現実にそんな恐ろしい魔物がいるなんてびっくりですよ! ま、まさか、ドラゴンが実在したりなんてこと……)


「トーリって、頭がいいし腕も確かなのに、常識知らずなところがあるよな。どこ出身なんだ?」


 マーキーに聞かれて、トーリは「ええと、普通の動物はたくさんいたけれど、魔物はいない所に住んでいたよ」と答えた。


「それって、強力な結界が張ってあったってこと? もしかするとエルフの隠れ里ってやつかな」


「うーん……」


 アルバートが目を輝かせているが、まさか『異世界に住んでいました。魔法はない所です』とは言えずに言葉を濁す。


「あっ、ごめんね。そういうのって、里の外では口にしちゃいけないっていうおきてがあるんだよね、わかってるから大丈夫」


 アルバートがうんうん頷きながら肩を叩いて「いつか連れて行ってくれたら嬉しいな」なんてことを言うので、トーリは笑ってごまかした。


「で、カタコブイノシシの話に戻すぞ。カタコブイノシシはふたつの魔石を持つ。あいつらは額のコブに入っている方の魔力を使って、身体の表面を固くしているんだ」


 グレッグの話によると、魔石をふたつ持つ魔物はかなりの種類がいて、戦闘時に魔法を使ってくるので注意する必要がある、とのことだった。


「だが、武器が効かないわけではない。その手段が強化魔法だ。刃に強化魔法をかけると魔法で底上げされた防御も突破できる。だから、マーキーが剣に強化魔法をかけていたなら、もっと早くイノシシを倒せただろう」


「あっ」


 戦いにいっぱいいっぱいになって、強化魔法を使っていなかったマーキーは「そう言えばそうだな」と悔しそうな顔をした。


「弱い魔物相手に連戦連勝したから癖がついたんだろう。効率よく魔物を倒すには、その都度戦法を切り替えていくことが大切だ」


「はい!」


「確かに、ウサギやネズミにはいらないからなあ。イノシシを相手にした時は慌てちゃっていたし、そこまで気が回らなかった」


「フィールドでは、心の準備を待って魔物が出てくるわけじゃないぞ。普段から、瞬間的に強化魔法を発動する訓練をしておけ。ずっとかけていたんじゃすぐに魔力が切れてしまうからな、武器を振るうその時にだけ強化するんだ。身体に覚えさせろ。ギドもジェシカもアルバートもだ。ジェシカは杖でもある程度戦えるようにしておけよ。魔法の威力を上げる方法は……」


「方法は?」


「魔法使いに聞いてくれ」


「もう、教官ったら!」


「すまんすまん」

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