初めての狩り
第39話
そして翌朝。
トーリは前日よりも早く起きて朝食を食べると、支度をしてギルドに向かうことにした。
「ロナさん、行ってきます」
声をかけたトーリに、パンを運んでいたロナが近寄ってきて顔を見上げた。
「行ってらっしゃい、がんばってですー」
「す」
リスのベルンは今朝も毛艶がよくモフモフだ。
「ベルンちゃんも、行ってらっしゃい」
ロナが頭を差し出したので、看板幼女の頭を撫でると、トーリはギルドの初心者講習に向かった。
昨日買ったシンプルな普段着が動きやすかったのでそれを着て、背中に弓を、腰にナイフを装備すればそれで準備完了だ。
彼は弓使いかつナイフ使いなので、身を守るよりも避けるタイプだ。鎧のような身体の動きを妨げる重い防具は不用だし、身体強化魔法を使えばそこそこ防御力がある。草原の魔物の強さを考えると、しばらくはこれで大丈夫そうだ。
将来、森やダンジョンで活動したくなった時に手に入れるのならば、最適なのは高価な特殊効果付きの防具となるが、今はまだ資金が全然足りない。魔法が絡むものはどうしても値段が高いのだ。
見習いの今は、とにかく手持ちの装備で戦いお金を稼ぐしかない。初心者冒険者は、Fランク用の簡単な依頼をこなしながら、草原で弱い魔物を倒してお金を貯めるのが定番である。
トーリは冒険者ギルドに行くと、中に入ってギルドマスターが座る総合受付に向かった。
「シーザーさん、おはようございます」
「おう、おはよう。今朝も元気だな」
朝のギルドはそこそこ賑わっていたが、シーザーの座る前にわざわざ行く者はいなかったので、総合受付は空いている。
「ギルマスに絡むとは物好きなエルフだな」「怖いもの知らずな性格じゃないのか。すぐに命を落とさなければいいがなあ」などという声も聞こえたが、シーザーがそちらに視線をやると静かになった。
「初心者講習を受けにきたんですけど、グレッグさんが来る前にギルドの図書室を使ってもいいですか? 魔物の勉強をしておきたいんです」
「おう、偉いな」
女神アメリアーナはこの世界の言葉に関する知識を与えてくれたのだが、他の情報はなかった。なので、マーキーのような子どもでも当たり前に知っている魔物の知識がない。
いろいろなゲームをやってきたトーリは、中には『初見殺し』というトリッキーな能力を持つ魔物キャラがいることを経験から知っている。
ゲームなら、例え死んでも経験値やアイテムを失ったり、ペナルティがってしばらくの間は能力が低下したり、などで済むのだが、現実となると怪我をしたり、下手をするとそこで人生が終わってしまう恐れがある。
というわけで、これから戦う敵について頭に入れておこうと考えたのだ。
というわけで、リスを頭に乗せた見習い冒険者のトーリはお勉強中である。
ギルドの図書室には、冒険者に有用な本が百冊ほどあって、情報収集の手助けになる。魔物や植物の図鑑が置いてあるので、昨日町をぶらついていた時に購入したノートに書き写しながら頭に入れていく。
草原(浅い場所)の魔物
○ミツメウサギ 三つ目の目で獲物をロックオンして、必ず体当たりを成功させるウサギ型の魔物 ウサギと違い素早くはないので、初心者でも落ち着けば対応できる 鋭い牙で噛みつくので注意が必要 物理攻撃、魔法攻撃、共に有効
○カマネズミ 前脚に固いトゲ状の突起が生えていて、鎌のように振って攻撃してくるネズミ型の魔物 早いスピードで地面を走り回る 群れて襲って来たら初心者は逃げること 物理攻撃、魔法攻撃、共に有効
○スライム 悪さはしないので放置推奨 浄化能力があるので多くのトイレや下水道で飼われている 捕まえてくれば買取り所で買い取ってもらえる 物理攻撃、魔法攻撃、共に有効だが、できるだけ殺さないように
○カタコブイノシシ 稀に草原で見られる 広い場所で出会うと突進を避けたらそのまま駆け抜けて行ってしまうため、倒すのにコツがいる こぶはとても固く、運がいいと良質な魔石が入っていることがある 肉が美味しいので人気の魔物 物理攻撃、魔法攻撃、共に有効
○トカゲゴブリン
お尻に尻尾が生えて爬虫類のような鱗に覆われた小鬼 複数で現れて地面を這って近づいてくる 背の高い草が生えているなどの見通しが悪い場所では要注意 物理攻撃、魔法攻撃、共に有効
「ふむふむ。このあたりが草原ではポピュラーな魔物というわけですね。ゴブリンにトカゲの尻尾が生えているなんて、初めて聞きました」
「す」
「そうですね、リスの尻尾が世界一いい尻尾だと思います」
ベルンはトーリの頭にのぼると、よしよし、と彼を撫でた。
「こっちは冒険者に必要なお役立ちアイテムの本ですね」
パラパラとめくると、薬の一覧があった。材料の薬草は冒険者ギルドに依頼が出るので、どの薬にどの薬草が使われるかの情報もある。
「回復薬の下級は軽い怪我に効く程度で、薬草が百本必要……けっこういるんですね」
トーリが掲示板で見かけた薬草の報酬は、十本ひと束で銅貨二枚だった。さらに、品質で買取り価格は前後する。
となると、下級回復薬は材料だけで銅貨が二十枚、つまり約二千円かかるというわけだ。
「これに、薬師の手間賃が乗るわけですから、かなりの値段になりますね。一万円くらいでしょうか」
一万円を払っても、打ち身や傷が治って動けるようになるなら安いものなのかもしれない。戦闘不能になったら命の危険にさらされるのだ。
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