第18話
ギルドマスターに「もう行ってよし。ただし、明日の朝はギルドに出頭。お疲れさん」と言われたトーリは『ここの冒険者ギルドは思ったよりも新人へのケアが手厚いところですね』と思いながらもシーザーに別れを告げる。
「冒険者の手引き、みたいな冊子を貰って終わりかなと思いましたが、いろいろな講習もあるらしいし、この町にやってきて正解でしたね」
さて、回復魔法を使った報酬は貰ったが、手持ちの現金はまだまだ心もとない。まずはマジカバンに入っている果実などを売ってから銀の鹿亭に向かうことにした。
彼はシーザーに目をつけられたことに気づいてない。
『高価なマジカバンを持っていて、回復魔法と鑑定が使えるエルフのおのぼりさん』なんてすぐに悪人に利用されてしまう要注意人物像なのだが、トーリにしてみたら、それくらいはゲームの中のキャラクターなら当たり前のスペックだし、回復魔法なんてそれこそ初期に覚える定番なのだ。そのため、彼は自分の価値がわかっていなかった。
「冒険者ギルドの隣……ここが買取り所ですね」
そろそろ仕事から戻ってきた冒険者が獲物を売りにやってくる頃なので、五つあるカウンターはフル稼働している。
「大物は第二受付に持っていけよー。解体する前のものは、小さくても第三受付だぞー」
たまに職員が叫ぶ。
トーリが列に並ぶと、ちらちらと見てくる視線を感じた。ほとんどは無視したが、目を合わせてしまったら笑顔で会釈する。相手は驚いた顔をして、わざとらしく視線を逸らした。
(よそ者に警戒をしているんでしょうね)
実際は、整った顔をしたエルフの少年に目を奪われているのだが、トーリは気づいていない。
「次の方、どうぞ」
トーリが並んだ列の担当は、若い女性だった。
「初めてですので、よろしくお願いします。果物や薬草を持ってきたんですけど」
「よろしくお願いします。薬草は、冒険者ギルドに所属しているならそちらに持って行った方が、ギルドへの貢献になるのでお勧めします」
「はい、それではそのようにしますね」
「果物はこちらの籠に出してください」
「いくつくらい、大丈夫ですか? 何種類か持ってきたんですけれど」
受付の女性は声をひそめて「もしや、大容量のマジカバン持ちですか?」と彼に尋ねた。
彼が頷くと、女性は「それでは、この札を待って第二受付に行ってください」と、彼に青い線の入った木の札を渡した。
「次からは、第二の方に並んでくださいね。ここでマジカバンを使うとトラブルの元になりがちですので」
「そうなんですね。知らずに来てしまったすみませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ。大きなものや量が多い時は、第二を利用してくださいね。少量の時はこちらで受け付けます。またのお越しをお待ちしています」
トーリは頭を下げると、第二受付へと向かった。
「ええと……」
「エルフの
背の低い初老の男性が、うろうろしているトーリに声をかけて仕切りのあるカウンターに連れて行ってくれた。
「マジカバン持ちなのか」
「はい。果物を何種類か持ってきました」
「俺はケントという。まあ、訳アリ担当だな」
「トーリです、よろしくお願いします」
ケントが出してくれた大きな籠に、次々と果物を入れていく。アプラ、ブルーバ、リバンバン、そしてパイナップルに似たパナプル、キウイフルーツに似たウキナウーツと出していくと「こりゃ驚いたな。どれも新鮮で見事な実だ。それに、ブルーバがこんなに……よく見つけたものだ」と感心された。
「ブルーバは冒険者ギルドで依頼が出ているから、あとで向こうの受付で完了処理をしてくれ。とりあえず、こちらで仮処理をしておこう」
「向こうに持っていきましょうか?」
「いや、この量ではどっちにしろ買取り所で納品になるからな」
彼は紙に計算をして、トーリに結果を見せた。
「どれも質がいいから高値がつく。しめて小金貨一枚に大銀貨八枚と銀貨五枚、少し色をつけておいたぞ」
「えっ、そんなにですか?」
およそ百八十五万円という大金になり、トーリは驚く。とても果物につく値段とは思えない。
「なに、ちょうどブルーバが不足していたからな、たくさん買い取れてよかった。知っていると思うが、魔力回復薬の材料になる貴重なものだから、需要はあるんだ。それに、このパナプルの実は貴族に人気の高級品だし、ウキナウーツも金持ちの食べ物だな。もちろん、アプラもリバンバンも人気の果物だし、こんなに高品質なら貴族の食卓にのぼるだろう」
「確かに、とっても美味しいですよね」
「まさか、お前、食ったのか?」
「実を採った時に、たくさん食べました」
「おう……それはいい思いをしたな、羨ましい」
実は、今日出した他にもたくさんの果物がマジカバンに入っているのだが、それは秘密にしておいた方がよさそうだとトーリは思った。
「代金はギルドカードに入れておくか?」
「大銀貨二枚と銀貨の分はください。あとはカードにお願いします」
「わかった」
カードを渡すと、入金とブルーバの納品手続きはすぐに終わった。トーリは現金を財布がわりの袋にしまうと、「またよろしくお願いします」と買取り所をあとにした。
(一気に小金持ちになってしまいましたが……この国の物価を調べるまでは、まだまだ安心できませんね。お金を大切にしなくては)
節約を心に誓いながら歩くトーリの耳を、リスのベルンが引っ張った。
「す! す!」
「あそこで売っている木の実を買え、と言ってますか?」
「す」
すっかりリス心のわかる男になっていた。彼はいろいろな木の実を少しずつ買うと、全種類をベルンに渡して残りはマジカバンにしまった。少し目を離した間に、リスはどこかへ木の実をしまい込んだ。
「どこにしまったのか、教えてくれないのですか」
「すー」
リスは素知らぬ顔をして、さっそく木の実を食べ始めた。
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