第7話

「さて、今日は町を目指しつつ、僕の持つ能力の検証をしていきたいですね。それと、換金できるものを入手したいです」


 夜明けと共に目を覚ましたので、昨夜と同じようなもので食事を済ますと、トーリはハンモックを片づけて木から降りた。


「それにしても、冒険の始まりにこのマジックバッグ……じゃなくてマジカバンがあるのは助かりますね。さすがは女神アメリアーナ様です。早く神殿に行ってお礼を申し上げなくては」

 

 彼の感謝の念がアメリアーナの元にしっかりと届き、女神の力をパワーアップさせていることに、トーリはまだ気づいていない。


 昨日のような凶暴な魔物に出くわした時のために、彼は腰にはナイフを、そして背中には弓を装備した。

 この弓は彼が以前プレイしたゲームにもあった『エルフの弓』で、エルフが使う時に限り矢を必要としない。つがえる仕草をすると、魔力の矢が現れるのだ。弓使いは矢の補充が大変なので、これはチートな武器と言えよう。


「ゲームではよく使っていましたけれど、弓は威力も知りたいしどこかで試しておきたいですね」


 ナイフの方は、日本にいた時にはもちろん扱ったことがなかったのだが、このエルフの身体にはすでに技術が染みついているらしく、取り回しにまったく不安がない。


「このキャラクターは遠距離攻撃型でしたが、近接もそこそこ戦闘力があったんですよね。とはいえ、まだ子どもの身体ですし、いわゆるレベルもさほど高くないでしょうから、魔物との戦いは避けていきましょう」


 昨日、狼の魔物に追いかけられた時は、本当に怖かったのだ。


 彼が周りを見回すと、今日も森がざわりと動き、彼に町への道を示した。


「森の精霊様、食べられる木の実などがある場所を教えてもらえると、大変助かるのですが」


 ざわわと葉が鳴り、導かれるままに進むとそこには真っ赤な実がたわわになる木々があった。


「早速の案内をありがとうございます!」


 トーリがひとつもいで鑑定する。


アプラの実 

皮ごと食べられる甘酸っぱくて美味しい果実 

日本でリンゴとして食べられていたものに近い 

品質がよく町で売ると高額で売れる


「見事なリンゴ……いや、アプラの実ですね。これで食事が充実します。新鮮な果物は美味しいし、身体にもいいですから助かりました、ありがとうございます」


 トーリは笑顔でお礼を言うと、身軽に木に登り、熟したアプラの実をもいでマジカバンにしまっていく。


「どのくらいいただいて大丈夫なのでしょう? 多過ぎたら止めてくださいね」


 だが、手が疲れるまでもいでも止められなかった。たくさんのアプラの実を収穫したトーリは「これで充分です、ありがとうございます」と言って木から降りた。


 ざわわと現れた道を、町に向かって歩き出す。


「僕にはどんな能力があるのでしょうか。ステータスオープン」


種族 エルフ

名前 トーリ

賞罰 なし

加護 女神アメリアーナ


 やはり、簡単な情報しかわからない。


「もっと見えないのでしょうか。『神鑑定』」


種族 転生エルフ

名前 トーリ

賞罰 なし

加護 調和の女神アメリアーナ

友達 湖水の精霊アクアヴィーラ


◯女神からのアドバイス

生活魔法を使ってみましょう


「少し増えました……ふふっ」


 生まれてこの方、友達がひとりもできなかったトーリは、『友達』という記載を見て驚き、嬉しくなって笑った。

 

「ステータスボードは他人にも見える仕様なんでしょうか? そのあたりも知りたいですね……神鑑定」


種族 (非表示→転生)エルフ

名前 トーリ

賞罰 なし

加護 調和の女神アメリアーナ

***以下、他人には非表示***

友達 湖水の精霊アクアヴィーラ


◯女神からのアドバイス

生活魔法を使ってみましょう




「さすがは神鑑定、とてもわかりやすいです」


トーリは知られたらまずいと思われる記載が隠されているのを確認して、安心した。


「そして、女神様からのアドバイスがありがたいです。生活魔法も使えるようになるんですね、助かります! さすがに歩きながらは難しいので、休憩する時にやってみましょう」


 エルフの種族特性か、または自然の中でキャンプすることが好きだったせいか、静かな森の中をひたすら歩くだけでもトーリは楽しかった。時折、森の精霊が美味しい森の恵みを収穫させてくれるのもありがたい。


「この実は、強い酸味があるけれど、甘くて疲れを吹き飛ばしてくれそうです」


 ブルーベリーに似た大粒の実を食べて、彼は「これも収穫させてくださいね」と精霊に頼む。そして、神鑑定をして驚いた。


ブルーバの実

食べると体力と魔力を回復する効能がある

蜂蜜を加えて煮ると魔力回復薬となる

町では高値で売られている


「時間停止のマジカバン、マジありがたいです」


 トーリは手が疲れるまで収穫したが、熟したブルーバの実はまったく減ったようには見えなかった。

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