TSエースパイロットの憂うつ おまけ
「ちっ……しくじった」
忌々しげにヒカリはそう吐き捨てる。
とても容姿に似つかないような態度ではあるが、それも無理からぬ事であろう。
何故なら現在ヒカリの体は、拘束されているのだ。
手や足は勿論、身体中が縛られているのである。
そしてヒカリの目の前には。
ホホホ
不気味な鳴き声を上げながら、ヒカリを自らの触手で拘束しているエイリアンの姿があった。
何故ヒカリがこの様な目にあっているのか?
それを説明するには、数時間ほど時を戻さなくてはいけない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「隊長ありがとうございます。休暇なのに買い物にまで付き合ってもらえるなんて」
「別にいいさ。暇だしな」
サラマンダーと名を付けられた宙域。
そこに建造された基地内に、ヒカリたちは駐屯していた。
基地と言っても長期間の宇宙生活を円滑にするため、一つの大都市レベルでの生活が可能となっていた。
補給を終えるまでの短い間ではあるが、長い艦生活に疲れていたクルーたちは喜んでいた。
ちなみこの規模の基地ならば性転換装置も当然あるのであるが、残念ながらヒカリは順番決めで後ろの方になってしまい。
部屋で待機していた所をユノに声を掛けられたのである。
「そ、それにしても」
「? 何だ?」
「じ、ジロジロと見られてますね」
「あ~。そうだな」
ヒカリは言うまでもなく美少女ではあるが、ユノも負けず劣らずの美少女である。
傍から見れば、美少女二人が仲良く買い物してるようにしか見えないだろう。
そうなると当然それを狙うような輩もチラホラと出てくるものである。
「気にするな。声を掛けてこない限りは無害だ」
「……慣れているんですね」
「まあな。前に一人で歩いていたら声をかけられまくって」
心底呆れたように語るヒカリであったが、ユノの表情が暗くなっている事には気づかないでいた。
「それで、どうなさったんですか?」
「勿論言い放ってやったさ。「俺は男です」ってな」
「そ、そうですか……そうですよね」
「まあそれでもしつこい奴には銃をチラつかせれば逃げていくからな」
「ふふ。本当に撃たないでくださいね」
雰囲気は和やかになり、その後も談笑しながら二人は中心エリアまで歩いていく。
「あともう一つだけ買ったら休みましょう。ここのカフェのスイーツは美味しいって有名らしいんですよ」
「へぇー。それは楽しみ……ん?」
すると突然、ヒカリの様子が変わる。
まるで戦場にいるような視線に、ユノも不安になる。
「どうしました?」
「ユニ。静かに、振り向かずに聞け。……小型エイリアンがいるかも知れない」
「!?」
エイリアンは通常大型ではあるが、中には人間サイズの小型がいる事が確認されている。
それらはこうした基地に潜入し、人々を誘拐したりするのである。
「一瞬だったから確信はないが、エイリアンだった。……お前は警備隊に連絡を」
「た、隊長は?」
「追う。何はともかく確かめないとな」
「危険です! 隊長に何かあったら!」
「心配するな、銃もある。危険だと思うなら早く警備隊を呼んで来い」
「……分かりました。くれぐれもお気をつけて」
そう言うとユノは速足で警備隊を呼びにいく。
「さて、と」
ヒカリはエイリアンを見かけた裏路地に入ると、銃をホルダーから抜いて構える。
幸いにも中央エリアには警備隊の駐屯地がある。
ここで見つからなくても、候補地を絞り込めればいい。
そう思いながらヒカリは周囲を警戒しながら進んでいく。
ホホホ
「!?」
エイリアン特有の不気味な鳴き声が聞こえ、ヒカリの警戒心はピークに達する。
その時であった。
ヌチャ
後ろの方から湿り気のある何かの音が聞こえたのである。
「!」
ヒカリは迷わず銃をその方向に向けるが、そこには先ほどまで無かった水たまりがあるのみであった。
「……ふー」
緊張を解くために一度息を吐いた時、後頭部に強い衝撃を受けてヒカリは倒れてしまう。
「クソ!」
だが限りある意識の中で必死に銃を構えるが、首筋に針のようなものがブスリと刺さると動けなくなってしまう。
(コイツ! ……高位エイリアンか!)
薄れゆく意識の中で、ヒカリは自分の不甲斐なさに歯噛みする。
そして、意識が途絶えたヒカリはエイリアンによってどこかに運ばれるのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「クッ!」
ここまでの事を整理しながら、何とか拘束を振りほどこうとするヒカリ。
だが試せば試すほど、拘束は強くなっていく一方である。
(……体が思うように動かない。神経毒か? 小型の高位エイリアンとは、運がない)
エイリアンには通常の個体より知能の高い高位体が確認されている。
そのほとんどは大型に集中しているが、極まれに小型にも高位体が発見されていた。
ホホホ
まるでアンモナイトのような姿をしたそのエイリアンは、ヒカリが藻掻くのを楽しむかのように鳴き声を上げる。
(癇に障る!)
そう思いながらも下手な抵抗はエイリアンを喜ばせるだけだと思い、静かに睨みつけるだけにする。
だがこうなっても、ヒカリは自身の勝利を確信している。
ここが何処かはヒカリには分からないが、それでもさっきの場所からそう遠くはないはず。
警備隊が家探しすれば、この状況は楽々ひっくり返せる。
(それまでただ耐えればいい)
そうヒカリが勝利を確信したのを見越してか、それともただ焦れただけなのか。
とにかくエイリアンは行動を起こす。
「ひゃあ!?」
ヌルヌルの触手が服の隙間を塗って、ヒカリの白い肌に這いよっていく。
(こ、コイツ!)
声を出してしまった羞恥からか、顔を真っ赤にしてエイリアンを睨みつけるヒカリ。
それをあざ笑うように、エイリアンは触手でヒカリの肌を撫でまわす。
(く、クソ! こそばゆいような気持ち悪いような感覚だ。結構キツイ)
慣れない触手による撫でまわしに、苦悶に悶えるヒカリは必死に表情に出さないようにする。
ホホホ
だがエイリアンはそれが気に入らなかったのか、さらなる一手を繰り出す。
「ゴホッ!?」
自らの触手でヒカリの口をこじ開けると、一際太い触手を口内に突っ込ませる。
当然息が苦しくなる中、触手を食いちぎってやろうと顎に力を込める。
だが神経毒と触手自体が太い事もあり、軽く歯を立てる程度になってしまうのが現状だ。
(ああ、段々と意識が……)
酸欠のために意識があやふやになっていくヒカリ。
すると服の下を這っている触手も、段々と気持ちいものに感じてくる。
(これ……ヤバいな)
このまま行けばどうなるか?
それはヒカリじゃなくても想像できるであろう。
まして触手が段々と腰から上へと向かってきて、一方で新たな触手が脚の付け根辺りを狙っているとなればなおさらである。
自身が辿るであろう運命を呪いながらも、ヒカリの心が諦めかけてた。
「隊長に触れるな! このエイリアン!!」
銃の発射音と怒声が鳴り響いたのはその時であった。
エイリアンはヒカリに触手を搦めているため身動きが出来ず、あっけなく銃弾に倒れる。
だが怒声の主は、エイリアンが倒れたにも関わらず踏みつけながらさらに銃を乱射する。
「詫びろ! 詫びろ! 詫びろ! 詫びろ!! その魂が何度輪廻転生しても償えない罪を詫びろ! くたばれ! くたばれ! くたばれ! くたばれ!!」
「ゆ、ユノ」
何とか口に入った触手を取り除きながら、ヒカリは必死に声の主の名を呼ぶ。
それが聞こえたのかは分からないがユノはあっさり銃撃を終えると、ヒカリの元に近寄る。
「隊長! 大丈夫ですか!」
「ああ。体は動かしずらいけど、命には問題ない」
「良かった!! 本当に……!!」
涙を流しながらヒカリの無事を喜ぶ姿は、先ほどまでエイリアンに銃撃していた同一人物とは思えない。
そんなユノの後ろから、次々に警備隊が入ってきてエイリアンの残党がいないか確かめていく。
ヒカリは生還した事を喜びながらもこれから行われる事情聴取や、毒を抜く作業。
そして体にこびり付いた触手が気持ちいいというイメージを振り払うという通常ならいらない作業を考え、また憂うつな気分となるのであった。
「ハァ」
TSエースパイロットの憂うつ 蒼色ノ狐 @aoirofox
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