ばち――奏夜
「はぁあ!? 僕だってやろうと思えば女らしく振舞えるわボケ!」
と、啖呵を切ってしまったのは数分前の事。
伯父がキモオタ丸出しで、久しぶりに会った桜ばかりを褒めるものだから、売り言葉に買い言葉でつい口走ってしまった言葉だった。
丁度最近、クラスメイトに同じような罵倒をされたばかりだったから、伯父が冗談で言っているのは分かっていたけどついムキになってしまった。大反省。
そして面白がった伯父と桜に、今日は女らしく振舞うという約束をさせられて、現在進行形で桜が僕でも着られそうな服を見繕っているところだ。
あんなこと、軽率に口に出すんじゃなかった……。
「うーん、奏夜は背が高いから、パンツはわたしのじゃサイズが合わないし、スカートかな! こういう色も似合うと思うんだよね」
「やだ……やだ……」
「トップスは奏夜が前着てた白いシャツとかにして、うん、こんな感じかな」
当事者の僕を置き去りに、準備が着々と進んでいく。
あーあ、もうどうにでもなーれ。
桜に好き勝手弄られて、まるで別人のような顔面が出来上がった。鏡の中の自分に誰だお前と言ってしまいそうになる。
服装もすでに女らしいものに着替えているので、覚悟を決めて部屋を出た。階段を下り、リビングで待つ伯父の元に向かう。
こうなったら度肝抜いてやるから覚悟しろよ。
扉を開けると、テレビを見ていた伯父から声がかけられた。
「お、奏夜は大変身出来たのか?」
「ええ、おかげさまで」
声を聞いて振り返った伯父が、途端に挙動不審になる。僕だと認識出来ていないらしい。
「え? え、っと……どちら様?」
「もう、伯父さんったら、こーんなに可愛い姪の顔を忘れてしまったの?」
いっそのこと突き抜けて演じてやろうと思って、アニメを思い出しながら精いっぱいの可愛いポーズをかます。
があああ、鳥肌が!
「音依路さん。この子、奏夜ですよ!」
「そッ!? おま、全然顔が違うじゃないか! 詐欺だ!」
「ぼ……私でも女らしく振舞えるって、信じて貰えた?」
まあ、詐欺顔面の補正がなかったら気持ち悪いだけだっただろうけど。僕の元々の顔から、可愛らしい顔面を作り上げられる桜のメイク技術すごいな。
わざとらしく伯父さんの側に近寄れば、僕だと分かっているはずなのに奇声を上げて飛びのく。あはは、面白い。
途中からは羞恥心も忘れて、女慣れしてなさすぎる伯父をからかって遊んだ。
しばらくして帰宅したおかーさんとおとーさんに、その姿を見られて顔から火が出る思いをした。ばち当たった。
――
―――
奏夜のなんでもない一日の小話。
書きたいところだけ書いた。リハビリ。
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