20話おまけSS
ベッドに閉じ込められてしばらくは逃げ出そうと奮闘したものの、結局は結界から抜け出すことを諦めた。
「なぁ、今の僕ってそんなに顔色悪いの?」
「ウン、悪いヨ! 見てみルー?」
そう言ってウンディーネは目を伏せる。長い睫毛だなあと思ってみていると、彼の両手へと水滴がどこからが集まってきた。
水滴の粒が次々と集まって融合し、ひとつの大きな水の塊が出来る。そして、それを薄く伸ばすようにして目の前に広げた。水鏡の要領で、水面に僕の顔が映し出される。
「あー……」
これは、うん。思ってた以上に酷い顔してんな。特に顔色が最悪だ。
結構平気なつもりでいたけど、あの拘束具から跳ね返ってきたダメージが抜け切ってないのか。なんかやたらと足元が覚束無いし。
はあとため息をつきながら脱力する。ここまであからさまだったとは思わなかった。
コンさんは単に、善意で心配してくれて、休めって意味で引き止めてくれたって考えても、いいのかな。
「ネ? だから今はゆっくり休んだほうがいいヨー」
「わかった」
コンさんのベッドだろうがお構い無しに寝転がる。ベッドから降りられないんだからこうするしかないよな。
水鏡を処理するウンディーネをボーッと眺めた。
「休むって言っても、寝っ転がってるだけじゃ暇だな」
「アッ! じゃア、じゃア、ソウヤ様がいた世界の話が聴きたいナー!」
「ん、おお。まあ、いいけど」
上目遣いで可愛くおねだりされてしまえば、断れるはずもない。
地球の話っていっても、なんの話をすればいいんだろ。
うーんと、とりあえず、まずはどんな世界なのかを説明するべきか。
「えっと、僕のいた世界には魔法がないんだ。もしかしたらあるのかもしれないけど、少なくとも僕はそういうのと無縁だった」
「エッ!? 魔法が無くても生きていけるノー?」
心底驚いたような顔をするウンディーネ。精霊だからこそ、余計に魔法のない世界が想像出来ないのかもな。
「そりゃ、生きれるよ。魔法の代用となっている科学技術が発展してるから」
「カガクギジュツ?」
「うん。それは、魔法みたいな汎用性はないかもしれないけど、道具さえあれば誰だって扱えるんだ。空も飛べるし火も付けられるし、風を起こすことだって出来る。遠くの人と会話したり、風景をそのまま記録することも出来るんだよ」
発明した人達は本当にすごいよな。
縄文時代とかの人からしてみれば、それらはもう魔法だ。飛行機は鉄の塊を浮かべて空を飛ぶ魔法。ライターは一瞬で火がつく魔法。扇風機もボタンを押すだけで風が生まれる魔法。
電話もカメラも進化しているし、スマホとかほんとに便利。
武器とか兵器にしたってそう。
こうして考えてみと、僕らにとっては当たり前でも、知らない人から見れば十分魔法に等しい技術だよな。
出来すぎた技術というのは魔法と区別がつかないものだと何かで読んだけど、本当にその通りだわ。
ウンディーネは目をキラキラさせてはしゃぐ。
「魔法じゃないのニ、そんなことが出来るなんてカガクギジュツ、凄イ!」
「凄いんだよー。そんなわけで魔法がなくても生きていけるわけです。魔王みたいな脅威もいないしね」
「魔王いないノ!?」
「なんなら神も多分いない」
「神モ!?」
反応が面白い。
神がいるか否かという話はヘビーなので置いといて。ま、僕はいたら面白いなと思ってるけど。あっ、でもオカマ神みたいのだと思うとちょっと……。
そうだ、僕って神なんだっけ。でも実感無いから、ノーカンで。
だって、本当に僕が神なんだったら勉強せずともテストでオール百点を取れてもいいのでは。人間相手にあんなクソ陰湿なイジメを受ける事もなかったのでは?
「ソウヤ様?」
「あ、ごめん。えーと、神は死んだって話だったよな」
「死んだノ!?」
ニーチェです。
「それはそうと、僕はこっちの世界の話も訊きた――」
「ボク、ソウヤ様がどんな風に過ごしてきたのかも知りたいナー! ダメ?」
「ダメじゃないです!」
可愛さを存分に発揮した顔で強請られてしまえば、それを拒否することなどできまい。かわいいは正義。
それから、僕の話をした。さすがにいじめられてたとかそういう話は出来ないから、勇者様桜の印象を良くする話をしておいた。ナイスアシスト、僕。
話の途中で夜一十六時の鐘が鳴り、コンさんが部屋に戻ってきた。
文句を言ってやろうと、僕は身を置こした。
――
―――
本編でカットした部分の話。
ウンディーネとの掛け合いが気に入っていたので供養さんです。
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