水の王と銀の魔法使い――コンさん
「何をしているんだ?」
俺がウンディーネ王城の中庭の一角で巻物スクロールに簡易魔法陣を描いていると、いつの間にか隣にウンディーネ王国現国王陛下がいた。
興味津々な様子で俺の手元を覗き込んでいる。この間謁見した時は後ろに流して整えられていた髪を雑に下ろし、平民と同じようなラフな格好をしていた。こういう格好をしていると、俺と同じかそれよりも若く見えるな……と、これは不敬か。
如何にもお忍び帰りという風貌だが、一国の王がそれでいいのかという疑問は浮かぶ。若くして即位し苦労している分、息抜きも必要ということだろうか。
「おい、聞こえていないのか」
「……申し訳ありません。今は巻物スクロール用の簡易魔法陣を描いております」
「巻物スクロール? なんだそれは」
「魔力を流すだけで魔法が放てる魔法具です。使用時は詠唱の必要も陣の形成も必要ありません」
俺の説明を聞き、面白そうに陛下は巻物を手に取る。あれは闇属性の防御魔法のか。それならば危険はないと判断して、続きの作業に戻る。
物珍しさで眺めているのだろうが、どうせすぐに飽きてと去っていくだろう。
目の前には描きかけの召喚魔法の陣。
召喚魔法は、誰でも有する無属性に分類される。しかし他の魔法に比べて極端に扱いが難しい。本来、詠唱しながらその場で召喚陣を構築しなければならず、繊細な魔力制御と魔力操作が必要となるからだ。
しかし、こうして先んじて巻物スクロールに魔法陣として組んでおけば、召喚陣をその場で構築する必要がなくなり、魔力の操作や制御も必要なくなる。魔力量の消費が大きくなるのは難点だが、そこは今後の課題だな。
「ふむ、面白い。これはその属性の適性が無くても発動出来るのか?」
すっかりいなくなったのだとばかり思っていた陛下が、急に話しかけてきて驚いた。筆に染み込ませた魔墨が紙の上に滴り落ちる。……これはもう使えないな。
それにしても、適性のない属性の巻物スクロール発動か。
「……試したことはありませんが、術式を弄ればそれも可能になるかと。ただ、威力は減少するでしょうね」
「例えば、治癒魔法なんかを魔法陣に組み込むことは? 威力は魔力増幅の術式を組み込んだらどうだ」
真剣な表情で真面目に提案されて、面食らう。こんな風に興味を持たれるのは初めてだった。
確かに陛下の提案通り、治癒魔法を巻物スクロールに出来れば、戦闘中に素早く治療出来る。大怪我などは治癒できないにせよ、死亡する危険が下がることは間違いないだろう。
俺は属性の問題で治癒魔法を使えないから視野になかったが、治癒魔法を使える者がいるのなら試してみたいと思う。
ただ、治癒魔法は特殊だ。属性と相性が良くても扱えるとは限らない。術式を弄ったところで適性のない者が発動できるかどうかはやってみないと分からないな。
「魔法陣に組み込むことが出来たとしても、適性のない者が発動できるとは限りませんよ」
「ああ、そうだな。だが、だからこそ確かめる価値はある。そうは思わないか?」
不敵な笑みを浮かべて見せる姿は、まさに人の上に立ち国を統べる者のそれだった。
いくら平民の服に身を包もうが、王は王でしかないのだとその時俺は実感していた。
――
―――
ウンディーネ国王グラムスとコンさんの、ソウヤ達が召喚されてくる前のお話。
ソウヤって実はあんまり魔法を使わないから、こういう話は書いてても楽しい
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