終わりへの始まり――アルビオ※
多分世界は、おれに優しくはない。
幼い頃から、当然のように他人の心の声が聴こえていた。それが普通なのだと思っていたけれど、どうやら違うらしいと気付いたのは、母が亡くなってからだった。
おれの母はとても素直なひとで、口から言う言葉も心の声も大差ない。そんなひとだった。可愛らしいひとだった。
あまり外に出て暮らせる状況ではなかったから、ずっと母と二人で暮らしていた。だからおれは、自分の能力に疑問を持たないで成長してしまった。でも、今はもう。
「おいおいおい、化け物のくせに俺たちそっちのけで考え事かあ?」
「っや……ちが……」
「ちょっとやめなよー、また神父様に怒られちゃうよー(気味の悪い化け物は化け物らしく、地面にはいつくばっているのがお似合いだわ)」
強引に髪の毛を掴まれて、顔面をぐりぐりと砂に押し付けられる。咄嗟に目を瞑るものの、口や鼻から砂が張り込んできてジャリジャリと気持ちが悪い。
醜い声が、頭の中に反響して、増幅する。これは実際にかけられた言葉かな、それとも心の声なのかな。段々どっちがどっちの言葉だったのか、判断出来なくなって――。
どうしてこうなってしまったんだろう。
おれが他人の心の声を聴ける化け物圏、だから? 魔族と人間の間に出来た子だから?
それとも…………。
「何、やってんの?」
リン、と。鈴のような声がした。
「はぁ? この化け物を躾けてるんだよ。責められる覚えならねーぞ。この街の奴らはみーんなこいつが化け物だってこと、知ってんだ」
「へえ、どうでもいいよ。でも僕はその少年に用があるからさぁ。……死んで」
そう言って、謎の人物はおれに酷いことをした人たちを、呆気なく殺した。
その光景を目で見たわけではないけれど、彼らの凄まじい叫びを最後に“声”が聴こえなくなったから、多分そうなのだと思う。
のろのろと体を起こす。全身が痛かった。口の中の砂利を吐き出し、顔についた砂も払う。
そうしてようやく目の前に立つ人物を見た。フードを目深にかぶった人物だ。頭の部分が不自然に二か所、膨らんでいるように見える。とても踵の高い、赤い靴を履いたその人は、おれの方へと手を差し伸べる。
「一緒に来てもらうよ」
「え、あ、あの……で、も。でも、おれ」
「断るなら殺す。返事はハイ以外許さない」
「ひっ……」
フードの下から覗いた黄色く光る目。この人は、断れば本気でおれを殺す気だ。心の声からもハッキリ分かる、殺意。
選択肢はなかった。おれは「はい」と答えて、その人の手を取ることしか出来なかった。唯一見える口元は、面白そうに弧を描き、鋭い牙のような犬歯が見えた。
これがおれの、終わりへの始まり。
あの人との、出会いの日だった。
――
―――
アルビオとあの人の出会いの話。
実はあの人が『手を差し伸べる』っていうのがめちゃエモなんだけど、本編進んでないから何も明かせないのよね。
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