天界にて――全能神
全てが白で統一された空間に、一つの人影。
丹念に織り込まれた絹のように、床に折り重なる長い金糸の髪。同色の長い睫毛に縁取られた涼しげな水色の瞳は、何も映してはいなかった。ぼんやりと虚空を見つめたまま、微動だにしない。
心ここに在らずな様子で、ひたすら何も無い場所をその瞳に写し続ける。端麗な顔立ちも相まって、まるで精巧に造られた原寸大のドールのよう。瞬きさえもしないそれはあまりに無機質で、生きていることを微塵も感じさせなかった。
しかし、この世界が存在していることこそが、彼が生きているという証拠であり、証明。
数多の世界を管理し繋ぎ止める。そんな杭の役割を持つ三ノ柱であり、破壊も創造も死も生をも司る全能の神と成なった全能神・オムニディオネ。それが彼、この世界の主神であり、唯一の最高神の真名まなである。
今や、彼なくしては世界が営みを続けることさえ不可能な、唯一無二の存在にまで至った。
望んで成なった訳ではなかった。それでも、あの時はそう成なるよりほか、世界を存続していく道がなかった。
「全能神様」
空間の裂け目から不意に現れたのは、眼鏡をかけた一人の天使。目を伏せたまま声をかけ、その場に膝をつく。
時が止まっていたように停止していた全能神は、何度か長い睫毛を震わせた。徐々に瞳には光が宿り、顔にも生気が戻っていく。顔にかかった前髪をかき上げ、ふわりと笑みを浮かべた。
「あらぁ? ガブリエル、どうしたのん」
「はい。ソウヤ様にルシファーが接触しました」
全能神は一瞬驚いた様子を見せ、それから静かに「そう」と呟いた。
ガブリエルと呼ばれた眼鏡の天使は、その場で静かに指示を待つ。かつては同胞であった銀髪の彼の姿を脳裏に一瞬思い浮かべて、すぐにかき消した。
零れ落ちる金糸の髪をさらさらと靡かせながら立ち上がった全能神はゆっくりと目を閉じる。瞼の裏には下界の様子が映し出されていた。
懐かしいあの子の微細な魔力を辿れば、メイド姿に扮するのを躊躇うあの子の姿が見えて、思わず笑みが零れる。
「全能神様?」
「んふ、近いうちにあの子をこっちに喚ぶわ。準備を頼んだわね」
「はい」
楽しそうな笑みを浮かべた全能神に命じられ、ガブリエルはまた己の仕事が増えるのかと、内心頭を抱えた。
しかし皆に愛された彼女と再会できる日を心待ちにしているのは、この天使とて同じ。自然と口元には笑みが浮かんでいたのだった。
遠くでその様子を眺めていた者がいた。金の髪の男だった。
「ソウヤ様……?」
驚きと愛しさが滲んだ呟きは、誰にも聞き取られることなく霧散した。
――
―――
ゴッドの日だったので、天界での話です。
全能神の話と、最後にあの変態がちょっとだけ登場しています。
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