第2話 多数決アタック
ホームルームは終了した。
俺は晴れて武装清掃係となった。
そして同時に決定した武装清掃係の権能強化により、学校を占拠したアホ共をぶっ飛ばしに乗り出すことにもなった。
「着任早々の仕事になるけれど」
武器を懐に忍ばせ装備を整えたところで、委員長は切れ長の目元をかすかにほころばせながら言った。
「頑張ってね。無理せずに」
「はい、委員長閣下、必ずや任務を完遂して帰ってまいります!」
俺は感涙をなんとか堪えて敬礼した。
情けないが念願の武装清掃係への就任だ。少しの涙は許してほしい。
「大袈裟ね。でも、グッドラック」
トン、と委員長の拳が俺の胸を叩く。
それですべてだった。
余計な言葉はいらない。
強者にはそれですべて通じる。
「待ってケンくん!」
だが皆が皆強者でいられるわけでもない。
そういう時には言葉も必要になる。
俺は教室の外に向けかけた足を止めた。
振り向くと綾香がそこに立っている。
「なんだ綾香。祝いの言葉ならさっき聞いたぞ」
「違うの、そうじゃないの……気を付けてって言いたくて」
「何を気を付けることがある。テロリストを片付けるだけだ。何も心配はいらない」
「ケン君強いもんね」
あっさりと綾香はうなずいた。
俺は訝しむ。
テロリストは脅威ではない。俺の体調は万全だ。
だったら気はどう付ければいい?
「うまくは言えないけど……」
肩越しに振り向くようにして彼女は言う。
その視線の先ではクラスメイトたちがめいめいくつろいだ様子で自由時間としゃれこんでいる。
こちらを気にする者はいない。
いや、いた。上野だ。
「なんか、怖いの。変な感じがするの」
「なるほど、春だ。そういうこともある」
俺は上野の含みのある視線を真正面から受け止めながら綾香に優しくいってやる。
「が、杞憂だ。問題はないぞ」
「でも……」
「大丈夫だ」
なおも何か言いたげなその頭をわしわしとなでてやると、綾香はあきらめたように一歩下がった。
「油断、しちゃだめだよ……?」
「油断ってどうやってするんだ?」
「どうって……」
「マジでわからんのだが……」
「えー……」
強者でない者を強者の言葉で納得させることは難しい。
それを痛いほどに噛みしめながら、俺は教室に背を向け、歩き出した。
教室を出るとまず、俺は頭の横につけた小型カメラのスイッチを入れた。
そのまま壁に沿って歩き、隣のB組を覗き込む。
「おとなしくしろよ……痛い目に遭いたくなかったらなあ!」
ここでもテロリストが銃を振り上げ威勢のいい声を上げていた。
「…………」
俺は無言でスマホを取り出す。
画面を見るとすでに多数決は始まっていた。
結果、正拳突き三票、裸締め五票、背負い投げ六票、フライングクロスチョップ十六票。
フライングクロスチョップ可決。
「うらあああああああ!」
俺は早速駆け込んで行ってフライングクロスチョップでテロリストの意識を奪った。
拘束して無力化する。
「ふう」
息をついて制服をはたく。
無論、この程度で汚れなどしないが。
目を丸くしているB組の生徒たちを見回し、無事を確かめてすぐに次へと向かう。
『さすがね』
スマホから声がする。
委員長だ。
「大したことじゃないさ。あれくらい上野でもできる」
『あら対抗心』
いたずらっぽい声がするが、ただの事実だ。
多数決で決まったオーダーで敵を叩く。
A組の生徒なら誰でもできる。否、できねば困る。
なぜなら俺たちは超民主主義の教室。そして俺はそのA組の理想の邪魔を片付ける武装掃除係なのだから。
俺の頭のカメラはその映像をA組全員のスマホに送っている。
そしてその映像を見ながら提出された議案をもとに多数決を行って、テロリストを排除する。
そのためのアプリを急遽組み上げたのはその方面に詳しいオタク男子だ。
俺たちA組に死角はない。
CQC、詠春拳、凶器攻撃、因縁の有刺鉄線電流爆破デスマッチと多数決で決まったオーダーに従ってG組までを救い、二階、つまり二年生の階をとりあえずすべて解放する。
「フン、口ほどにもない奴らめ」
このままでは一時間とたたずに制圧が終わってしまう。
少しは楽しめそうな奴はいないのか。
『それは趣旨が違うわね』
「俺より強い奴に会いに行く」
『わたしの方が権力あるけど』
「委員長に会いに行く」
『今度にしてね』
「了解」
『それにしても因縁の有刺鉄線電流爆破デスマッチって攻撃手段かしら……?』
訝しがっている委員長の声を聞き流しながらスマホを見る。
画面には次の行動に関しての議案が提示されている。
多数決の結果、向かう先は……放送室?
俺はよく分からず首をかしげたが、さりとて大きく疑問も持たずに指定の方向へと足を向けた。
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