名前

「なんで悲しそうな顔をする?」

「何がですか?」

「悲しそうな顔をしてる」


じっと私の目を見てくる。どうして分かるの。


「何でもないですよ」


そう言って笑う。


「話したくないならこれ以上は聞かない。だが、1人で我慢するな。どんな話でも聞くから」


その優しい声にまた泣きそうになった。


「大丈夫です。でも本当に辛くなったら聞いてもらってもいいですか?」


そんな日は来ないと思うけど。


「ああ、いくらでも」


それからは静かに海を眺める。


「龍牙」

「え?」

「俺の名前、龍牙」

「あ、はい。私は辻です」

「聞いていいか?下の名前は?」

「葵。辻葵です」

「クック。聞いといてなんだがもうちょっと警戒心持った方がいいぞ?」

「あ!」

「クック。もう遅い。アパートまで送る」

「いえ。大丈夫ですよ?ここから近いので」

「いや、送る」

「あの」


まあ、いいか。この際送ってもらおうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る