隣、いいか?

葵side

近くで誰かの気配を感じる。

でもその方向を向けない。

俯いて十字架の傷痕を触ったまま動けないでいる。

いつの間にか泣いていた。


「隣、いいか?」


昨日と同じセリフ。


「どうぞ」


涙を拭う。


「何かあったのか?」

「いいえ。何もないです」

海を見る。気持ちを落ち着かせなきゃ。

「歌、歌ってたな」

「え?歌?」


そういえば、歌歌ってた。あぁ、恥ずかしいー。

手で顔を覆う。


「クックッ」

「え?今笑った?」

「おかしくてな」

「何がですか?」

「百面相してたから」


えぇ。項垂れているとポンポンと頭を撫でられた。なんでこの人に触れられても怖くないんだろう?でもこの人にはこの人の人生がある。

離れた手を名残惜しいと思ってしまった。

海を見てその気持ちを誤魔化す。

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