淡い期待

葵side

ゆったり時間が流れていく。

私はこの時間が好き。何にも考えないで何にも囚われないでいられる唯一の場所。

その場所に今日はなぜか隣に男の人がいるけど。

まあ、いいか。

この人も海を見に来たのかな?こんな時間に?

って、私もか。


「海を、見に来たんですか?」

「あ?」

「いえ、珍しかったから」

「……そうだな」


海を見に来たんじゃなかったのかな?

不思議に思いながらも海を見る。

暗い夜に寄せては返す海の音だけが静かにその2人を包んでいた。

時々ふわっと香る海の匂い。今日も心が浄化される。気がする。


「この時間はいつもここにいるのか? もしいるならまた来よう。そしたら今度は海を見に来る」


そう言って隣で優しく笑う綺麗な男の人。

とっくに捕まってたのかもしれない。

珍しく私から話しかけたし。不思議な人。


「……だいたいいつもここにいます」

「……そうか」


そう一言言って少しだけ明るくなり始めた空を見上げて海辺の砂浜を歩きにくそうな靴で私を背にして歩いて行った。

歩いていくのを見送っていると黒い車が止まっているのが見えて少ししてその車に乗り込むとゆるく発進していく。

運転手らしき人に乗せてもらってるのを見てしまった。

すごい人なのかな?というか


「やっぱり、海見にきてなかった」


思わず笑みがこぼれる。

再び海の方へ視線を向けるとまた一段と明るくなってきた海を少し眺めて私はアパートへ帰った。

また会えるかもしれないという淡い期待を抱いて。

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