Chapter 2
でも、その週の週末・・・
丁度昼食を食べに行こうとしてた時にいきなり呼び止められ、スケジュールを確認するフリをして、小声でこっそり飲みに誘われた。
「ねぇ、今日の夜って空いてる?」
「えっ?今日ですか??・・・あ・・いつでも空いてますけど・・」
「じゃあ6時にクリスタル広場で・・いい?」
「お酒とかなら、そんなに飲めませんけど・・」
「いいよ、私もそうだから」
「じゃあ・・・いいですよ・・6時ですね」
「うん、じゃあ後でね」
なんとなく、近々に誘われそうな予感はしてたけれど、
まさか当日に言われるとは思ってもみなかった。
そして、彼女はいつも通り夕方4時に上がり、自分は5時に上がって
S地下街のクリスタル広場で落ち合い、当時でいうカフェバーみたいなお店に連れて行かれた。
その手の店が多いS町やN町、P大通り付近は、社長や兄弟子がよく飲み歩いてるから避けた方がいいとかで、繁華街から少し離れた場所にあるお店を探しといてくれたらしい。
「いきなりでゴメンね。あの人達がいると声も掛けにくくって」
あの人達とは、もちろん社長と兄弟子の事だ。
その二人がいつもハイテンションでくだらない事を話してて、時々社長の奥さんがそれに加わり、自分と彼女だけが黙々と仕事をしている。
自分達は、ちょっとした雑談すら出来ない、そんな環境なのだ。
「いつも何の予定もありませんから、いきなりでも全然いいですよ」
「週末とか休日にカノジョとか友達と遊んだりしないの?」
「去年くらいまでは友達とよく遊んでましたけど、あんまり楽しい気分にもなれなくて、最近はもう全然・・・」
「カノジョとかも今は作る気になれませんし・・・」
「なんかね・・・なんとなくそうなんだろうなって気がして、ちょっと話してみようかなってね・・」
「こんなネクラな奴と話しても、全然面白くないと思いますけど・・・」
「でもホントは誰かと話したくて仕方ないんでしょう?(笑)」
それは間違っちゃいない・・・
ただ、そんな話を聞いてくれる人が、その時は誰もいなかっただけなのだ。
でもなんとなく・・
今まで誰にも話せなかったあの過去の事を、彼女になら話せると思った。
「KTさんて、メチャクチャ人の心を読みますよね」
「怖いおばさんだなって思った?(笑)」
「あ、いえ、全然おばさんだなんて思ってませんから(汗)、そこはちゃんと心読んで下さいよ(苦笑)」
「フフフ、S君て意外と面白いよね(笑)」
「そんな事無いですって」
そんな感じで、話し始めから、彼女のペースに飲み込まれる一方だった。
でも、決して苦手な感じでは無く、むしろもっと話したくなるような、そんな感じだった。
「でさ、心に溜まってる事、全部吐き出してみたら? ちゃんと聞いてあげるから」
「あの・・・」
「何?」
「どうして自分の事、そんなに気にしてくれるんですか?」
「ふーん、S君て、自分の事、自分て呼ぶんだね(笑)。なんか軍人さんみたい(笑)」
「【僕】とか言うの恥ずかしいじゃ無いですか。年上の人に対して【俺】ってのも失礼だし、【私】ってのもなんか変だし・・・」
「そうだよね、男の人って自分の呼び方難しいよね(笑)、女の子なら【私】だけで済んじゃうのにね・・・って、あ、ゴメン、どうして気にしてくれるのかって?」
「KTさん程の美人なら、こんなネクラな奴を相手にしなくても、もっとイイ男がたくさん寄って来てくれそうなのに」
「美人て・・・褒め言葉みたいだけど、失礼になる事もあるって知ってる?」
「知ってます。でも本当に美人だと思ってる人に言うのは全然失礼じゃないと思ってるんで」
「ストレートだね~(笑) 若い子ってそういう事言うの恥ずかしがるもんじゃないの?」
「割と平気で言っちゃいます(笑)」
「S君て、ホントに21?」
「別に年齢ごまかしてませんよ」
「なんか、年齢の割に悟りすぎてない?」
「悟ってるように見せてるだけですよ。自分の気持ちもコントロール出来ないような子供ですから・・」
「ほら~そんな事、普通の21歳は絶対言わないって・・・」
「あ、ゴメンゴメン、また話逸れちゃったね・・えーと、どうして気にしてくれるのかって?・・」
「あ、もういいです。でも・・・声掛けてくれて、ちょっと嬉しかったです」
なんとなく昔から年上の女子に気に掛けて貰える事が多いというか、バイト先や就職先でも年上女子に色々と助けて貰ったり、お菓子を分けて貰ったりなんて事がよくあったので、今回みたいに誘われてもそこまで不自然さは感じておらず、もちろん変な期待をする事も無かった。
「なんか堅苦しい話し方だけど、まぁいいよね。で、話す気になってくれた?」
そして、1年と少し前に別れた元カノ(M子)の話・・・
高校1年の冬から4年近くも付き合って、結婚まで考えていたのに、卒業して就職後に会社の人と不倫をしてた事を、M子の親友から教えられて破局になった事・・・
もうM子に対する未練は全くないんだけど、その時の悔しさや辛さだけがいつまでも残って引き摺ってる事なんかを彼女に一通り話した。
そう、あの時は、一番信頼していた彼女に裏切られたショックがあまりにも大きすぎて、安定した仕事も辞め、好きだった車も手放し、同級生や友達とも一切関係を断ち、自分にとって人生が大きく変わったと言ってもいいくらいの出来事だったのだ。
平凡ながらも思い描いていた未来が一瞬で崩れ去ってしまったのだから無理も無い。
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