Chapter 1
そんなスタジオでの日々が始まり、なんとなく仕事にも慣れて来た頃・・・
丁度2~3ヶ月くらい経ったある日の事・・・
余程楽しそうな現場だったのか、自分が社長と同行する予定だったロケに兄弟子が付いて行ってしまい、仕方なくスタジオで商品撮影や現像をして、ちょっと休憩をしていた時に、それまで仕事の事以外で何も話した事が無かったKTさん(年上の女性)が、いきなり話し掛けて来た。
「S君(自分)てさ、なんか凄いよね・・・」
それまで社長達の雑談すらほぼ加わらないくらい無口な人だったのに、あまりにも突拍子過ぎてちょっと驚いたけれど、でも、それが全ての始まりだった。
「え?・・・何がですか?」
「だってさ、前にいたアシスタント君とか、その前の子も、初日から怒鳴られたりKN(兄弟子)からイジメられたりして、みんな1ヶ月もしないうちに辞めてっちゃってるのに、S君てほとんど怒鳴られたりしないし、理不尽な事されても全然平気な顔して、よく持ちこたえてるなと思って・・・」
「全然凄くないですよ。もっと厳しい会社なんていっぱいあるじゃないですか」
「ふーん、強いんだね」
「別に強く無いです。むしろ弱すぎて自分が嫌になるくらい・・・」
「そうかな?・・・全然そんな風には見えないけど」
「気のせいだと思います・・・」
「・・・あんまり話したく無いんだね。なんかちょっと陰があるもん」
「ちょっとビックリしてるだけですよ。仕事の事以外でKTさんと話すの初めてなんで」
普段の大人しい素振りから、まさかそんな風に話しかけて来るような人には見えなかったから、正直驚いた。
「ここはそんな話出来るような雰囲気じゃないもんね・・・」
「でも・・あんまり話したくないってのはあるかも」
「そう? あんまり話さない方がいい?」
「あ、いえ、KTさんとなら・・・」
「ん?それは嫌われてないと思っていいのかな?(笑)」
「全然嫌ってはいないです・・・」
「そう? じゃあ今度どこかでゆっくり話そうか。」
「休んでるとこ邪魔してゴメンね・・」
「あ、いえ・・・」
と、彼女との最初の会話はそんな感じだった。
自分より4歳年上なだけだけど、スタジオで見る彼女は、物凄くクールで大人な女性という感じがして、少し憧れみたいなのはあったけれど、自分とは全く違う世界の人という感覚しか、その時は無かった。
でも、その意識が少し変わったのは、それから間もなくの事だった。
人間不信に陥った過去の事件のせいで、それを時々思い出しては訪れるイライラ感や心の落ち込みによって。少し前からどうしようもなくモヤモヤした状態が続いていた時の事。
最初に会話した時と同じように社長と兄弟子がロケに行ってしまい、彼女と二人だけになった時にまた彼女から話しかけて来た。
「なんか・・・S君、ちょっと落ち込んでる?」
「え?・・・」
そんな素振りを見せたつもりは無かったのに、
どうして見透かされてしまったのか・・・
「なにか、悩んでるとか?」
「・・・なかなか断ち切れなくて・・・」
と、つい弾みでそう返してしまったものの、そんな言い方をしたら、根掘り葉掘り聞かれてしまうかも知れない・・・
ここは無難に「なんでもないです」と答えておけばよかった・・・
と、少し後悔・・・
でも、彼女からは思わぬ返事が帰って来た・・・
「・・・生きてると、いろんな事あるもんね・・・」
それは、事情はあまり話したくないって事を、彼女が察してくれたような気がして、ちょっとホッとしたけれど、
その一言が妙に心に刺さり、なんとなく彼女に惹かれていく自分を感じた・・・
そしてきっと、彼女も過去に何かあったんだなというのは、まだ若かった自分でも容易に推測出来たけれど、自分が落ち込んでるその理由もひょっとしたら彼女に見抜かれたのかも知れない・・・
いや、おおよそ見当はついてたって事なんだろうと思った。
「忘れたいのに・・・悔しくて、つい思い出しちゃうんですよね・・・」
「・・・・私と・・・同じだね・・・」
(え?・・・)
その意味ありげな言葉に、何か返そうと思ったけれど、適当な言葉も見つからず、
お互いに何かを察したように、それ以上詮索する事も、される事も無く
その時の会話はそれくらいで終わった。
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