第49話

そして、迎えた記者会見当日ーー


会場となる福光邸を、一樹さんと、橘内さん、鏡さんの四人で訪れた。

高い塀に囲まれ、何十人もの警備員を配し、中で働いている人も大勢で。吃驚しながら、玄関に案内され、中に入ると、築百年の厳かな雰囲気を漂わせる、純和風の造りになっていた。


「一樹さん、すごいね」


「そうだね。福光家は、もともと大名主で、戦後の農地改革で、一時は没落の一途を辿ったんだ。それを助け、政治家へ転向させたのが、うちの先祖。そこから長い付き合いが始まった」


一樹さんと話しをしていると、福光さんの奥様に声を掛けられた。


「ナオさん、こんにちは。本当に夫婦仲が宜しいのね」


「えっと、昨日は、お弁当ご馳走さまでした。あと、ランチ会でも、沢山お世話になりました」


「あら、わざわざ、ありがとう。ナオさん、主人を紹介するわ。さぁ、こっちよ」


奥様に手を引かれ、一樹さんと一緒に応接間へと向かった。


福光一央ふくみつかずおみだ」


二十畳はゆうにある広い応接間に、数え切れない程の座蒲団が敷き詰められていて、上席に、一人胡座をかき、気難しい表情を浮かべていた男性がそう名乗った。年齢は、一樹さんのお父さんとそう変わらないかも。


「初めまして、皆木ナオと申します」


緊張のあまり、唇を噛みそうになった。


「一樹、何ぼぉっとしてる。ナオの手を握ってやらんか。緊張して手が震えてる」


福光さんに言われ、一樹さんが慌てて、僕の右手をそっと握り締めてくれた。

気恥ずかしいけど、嬉しさの方が何倍も増して、自然と笑みが零れた。


「いやぁ、やっと君に会えて嬉しいよ。芳樹から何度も、うちの嫁は可愛いを連呼されてな。一樹に、さっさと会わせろと、何度言った事か」


「すみません男で・・・」


「そんな事ないぞ。一樹と支え合い、槙家を守っていくのが、君の役目。分からない事だらけだろう。うちの家内に、遠慮せず、何でも聞いて、一日でも早く慣れるよう心掛ければいい」


「はい‼分かりました‼」


笑顔で答えると、福光さんの表情が和らいだ。

あれ、この卵形の顔・・・

誰かに、輪郭が似てる。誰だっけ⁉

思い出せないでいるうち、記者会見が始まる時間が近くなり、僕は、隣の控室に案内された。

橘内さんと、鏡さんが先に正座して、待っていてくれた。


橘内さんに、隣に座るよう言われ、腰を下ろした時、何気なく彼を見て思い出した。

そう、彼橘内さんだ。



定刻の十四時になり、大勢の記者と、カメラマンが詰め掛ける中、静かに、記者会見が始まった。

向かって右から、福光さんの奥様、福光さん、そして、一樹さん。

鏡さんがいっていた、福光さんの息子さんの姿は、そこにはなかった。


控室に、モニターが設置されていて、僕は、画面越しに様子を見守る事に。


司会進行は、福光さんの秘書の方。


「わざわざご足労頂き、有り難うございます。プライベートな事なので、会場をこちらにさせていただきました。まず、週刊誌に報じられた、福光氏の隠し子の件ですが、福光家当主である奥様の方から、お話しさせて頂きます」


マイクを渡された奥様はゆっくりとした口調で話し始めた。

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