第31話

新幹線に乗るのこれで二回目って言ったら、一樹さんに笑われた。中三の修学旅行以来だもの。そんなに変かな⁉


僕は、三列シートの窓側の席、一樹さんは、真ん中の席。通路側に、橘内さんが座るのかと思ったら、


「新婚さんのお邪魔はしたくないので」


そんな事を言って、前の車両に移動していった。


考えてみたら、こうして、一樹さんと二人きりで過ごすの、初めてかも。緊張からか、両手に汗をかき、指やつま先が疼く。


何だかそわそわして落ち着かない。


「大丈夫⁉」


一樹さんの手が、僕の手にそっと重ねられた。


「熱でもある⁉」


ううん、と頭を振れば、


「そんなに、緊張しなくても。俺まで、緊張するだろ」


いつも見せてくれる優しい彼の笑顔を見ているうち、自然と、落ち着いてきた。


「昨日、あまり、寝てないんだろ⁉寝てていいよ」


「あの、一樹さん・・・」


昨夜の事、謝ったほうがいいかな。

ほんの出来心で、悪戯してごめんなさいって。


「昨日の夜ね・・・」


「ナオ、ごめんな。のぼせるまで無理させて。これからは、気を付けるようにする。あと、実家の、変なしきたりの事、言わないですまなかった」


「一樹さん・・・」


同時に口を開いたもの、彼に頭を下げられ、それ以上は言うことが出来なかった。


「あの父でさえも、頭が上がらない」


「そんなに、怖い人なの⁉僕、大丈夫かな⁉」


一樹さんの肩に寄り掛かかると、彼の手が腰に回ってきて、抱き寄せられた。当選を機に、スーツを何着か新調したみたい。今彼が着用しているのは、一番気に入っているシックなネイビー色のスーツ。クリーニング上がりの爽やかな香りがする。


「父は、母との交際を反対されていた。家柄が違いすぎる、学歴も高卒で、槙家の嫁として、品格が無さすぎる、相応しくないって。当時の鏡家の当主は、礼の祖父。父は、別の女性との結婚を強いられた。その矢先、母が妊娠している事が分かってーー今でいう、デキ婚かな⁉それで、仕方なく、結婚を認めたけど、母は、ずっと、肩身の狭い思いをしていたと思う」


「一樹さんの相手が、男だと知った時点で、もう無理だよ。絶対、認めてもらえない。一樹さんと、海斗の側に、ずっといたいのに・・・」


ーー嫌だよ、そんなの、絶対、嫌。


唇をキュッと、噛み締めた。


「俺も、ナオを失いたくない。俺たちの交際は、互いの家族が、公認しているんだ。それを盾に、頼んでみるよ」


「うん」


一樹さんが、何だか、格好よく見えてきた。


「そんなに、見詰められると、その・・・」


彼の顔がみるみる赤くなっていった。


「ーーキスしてもいい⁉」


小さく頷いて、顔を上げ、目を閉じると、彼の口唇が、唇にゆっくりと重なってきた。


ーー海斗、ゴメンね。


僕、一樹さんの事、好きなんだ。海斗と、同じくらい好き。

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