第30話

なんか鼻の先がくすぐったくて、目が覚めた。


ーーあっ、これ、一樹さんのだ。


真っ先に視線に入ったのは、下生えの中に縮こまる一樹さんの萎えた雄。


何気に、ぺろっと舌を出し、先っぽを舐めてみた。


微かに石鹸の薫りがする。


ーーあれ、なんの反応もない。


見上げると、彼は、穏やかな寝音を立てて熟睡していた。


「ナオは、本当に、寝相悪いな」


「海斗、起きてたの⁉」


「ナオの手が、何気に当たるんだよ」


目を擦りながら、海斗は、何度も欠伸をしていた。


「ごめん、わざとじゃないから」


って、いうか、何で二人とも裸なの⁉

僕は、かろうじて、下着を着せて貰ってるからいいけど。


「ナオ、一緒に寝よう」


海斗が、体を、一樹さんにくっ付けて、一人分開けてくれた。起き上がって、そこに入ると、肩に顔を埋めてきて、そっと、抱きしめられた。


「寂しいけど、我慢する」


この五年いつも彼と一緒で。それが当たり前になってて……


「僕だって、寂しいよ」


彼の背中に、遠慮がちに手を回すと、海斗の唇が、鎖骨の窪みに、軽く、押し付けられた。


「大好き。愛している」


「・・・僕も」


「頑張って、試練乗り越えて来い」


「試練って⁉」


「一樹、話してないんだ。俺もよく分からないけど、鏡っていう人が槙家の嫁と認めない限り、交際不可みたい」


「何、それ⁉」


「代々、槙家の嫁は、大番頭だった鏡家の当主が決めてきたらしい。一樹さんのお父さんが、それを初めて破ったらしいけど」


「じゃあ、礼さんっていう人のお父さんに、認められないといけないの⁉」


当主なら、一樹さんのお父さんと同じ世代かな⁉よく、分からないけど。


「多分」


「そっかぁ」


ーー僕、どうしたらいいんだろ。


「ありのままのナオでいればいいんじゃないかな⁉大丈夫」


海斗に励まして貰ったけど、前途多難なのは、変わりなく。


海斗は、しばらく、起きてくれていたけど、睡魔には勝てなかったようで。彼の寝顔を眺めながら、うんうん、色々考えてるうち、眠れなくなってしまった。

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