第16話

辺り一面、菜の花畑。

さわさわと、心地いい風がそよぎ、透き通った五月晴れの空がどこまでも続いててーー。


そこは、小さい頃、家族で遊びにきた思い出の場所であり、母が最期に選んだ場所。


母は、最後の最後まで、一人の女性だった。


未婚で姉を産み、また、別な人と恋に落ち、僕が産まれーー。


姉も、母と同じ道を辿った。


「・・・ナオ」


誰かが呼んでる。


この声は・・・。


おばさんの声だ。


「ナオ、おばちゃんちの子になりな」


母が亡くなって、一人ぼっちになって、泣いていた僕に、その、おっきい、分厚い手で、頭を撫でてくれた。


「すべすべの綺麗な手じゃなくて、ごめんね」


そんな、謝らなくてもいいのに。

僕、この手が大好きだよ。すごく温かいから。

おじさんも。海斗も、大好きだよ。



ーナオ、家に帰りなさい。貴方を待っている人が沢山いる。もう、独りじゃないのよー


また、違う人の声・・・。

この懐かしい声は、母さんの声だ。


帰る・・・!?


そう、帰らなきゃ。

海斗や、おばさんや、おじさん。それに、一樹さんが待ってる。

姉さんの事、僕が、看ないと。


僕には、姉はいません、そう言ってごめんね。

これからは、ちゃんと、僕が面倒をみるから許して。



ゆっくりと、意識が、浮上していく。

菜の花畑が、どんどん小さくなり、やがて、見えなくなりーー。

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