第17話
次に目が覚めた時、病院のベットの上だった。
「海斗・・・」
ずっと、僕の手を握り締めててくれたんだ。
ありがとう。
手を伸ばし、彼の柔かな髪に触れようとして、気が付いた。
もう片方の手も誰か、握ってくれてる。
見ると、そこには、一樹さんの姿。
目が腫れてるのは気のせいかな?
「一樹さんも、ありがとう」
「ん⁉ナオ、起きた⁉」
もぞもぞと、海斗の体が動く。
「海斗、ありがとう」
「お前は馬鹿か。みんな、心配したんだぞ」
「ごめんね」
海斗は、鼻を啜りあげながら、精一杯の笑顔を見せてくれた。
「姉さんは!?大丈夫!?」
「お前は、いっつもそうだな。自分のことより、周りに気使って・・・早織さん、元彼に騙されていたらしい・・・」
「海斗、その先は、俺から言うから」
一樹さんだって、苦しいはずなのに。
ごめんね。
「ナオ、お前には、かなり辛い話しだが、いいか⁉話しても⁉」
「うん」
隠し事されるよりいい。
ちゃんと、話して。
「早織は、ナオの母親の内縁の夫と、駆け落ちして、この街に辿り着いた。水商売、美人局詐欺をしながら、そいつの為に、必死で尽くしたらしい。浮気性と、ギャンブル狂のそいつは、ろくに働きもせず、昼間から、酒を呑み、女を連れ込んで・・・。やがて、早織を暴力で支配し始め、俺に近付くように差し向けた」
僕の手を握る、彼の掌に、ぎゅっと力が入る。
「最初から、横領するのが目的で、用済みになった、早織を、そいつは、クスリ漬けにし、売春を強要させていた。もともと、早織は優しいから、心が壊れるなど、造作もない。だから、中毒になるまで、酒を煽り続けて。俺を逆恨みするようになって、そして、事務所に・・・ごめんな、ナオ。すまない」
一樹さんは、姉を心から愛してくれていた。
目から溢れるその涙に、嘘偽りはないもの。
「それで、姉さんは⁉」
「殺人未遂で、一旦、逮捕されたけど、それは、あくまで、元彼をおびき寄せるための口実で。保釈になった早織を迎えにきた所を逮捕された。そのあと、早織は保護されて、矯正施設に収容された」
「じゃあ、生きてる⁉」
「あぁ。面会できるまでしばらく時間はかかると思うが。それと、一度は槙家の姓を名乗ったからと、俺の父が、各方面に手を回してくれてーー早織が、社会復帰するまでは、槙家の身内として扱うって、佳名さんを説得してくれた」
「姉さんの為にそこまで・・・ありがとう、一樹さん」
「それで、代わりに条件を出されて」
「条件⁉」
「あぁ、それが・・・」
一樹さんの顔付きがなんだか怪しい。
もう、泣いてはいないようだけど。
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