第15話

「弟のナオだよ。姉さん、久し振りだね」


「あたしに、弟なんか、いたかしら⁉」


「姉さんがいなくなって、母さんも亡くなって、一人ぼっちになって、どんだけ寂しかったか。甘えたくても誰にも、甘えられなくて。僕を引き取ってくれた、おじさんや、おばさん、海斗は、すっごく、優しくしてくれる。本当の寂しがり屋は、僕なのに、海斗の方から甘えてきてくれる。一樹さんも、そうだよ。誰だって、一人では、寂しくて生きていけない。もとの優しかった姉さんに戻って・・・」


こうするしかない。

姉さんが正気を取り戻す方法は。


ゆっくりと、一歩ずつ、姉に近付いて行って。

その小さな肩を、抱き寄せた。

チクりと、お腹に痛みが走ったけど、それ以外は、不思議と痛くなくて。


一樹さんが何かを叫んで。

周りにいる人達も、何故か、悲鳴を上げていて。

なんでだろう⁉


視界が、ぼおっとしてきた。


「ナオ!」


ようやく、一樹さんの叫ぶ声が耳に届いた。

崩れ落ちる僕の体を優しく抱き止めて、ぎゅっと、抱き締めてくれた。

霞む視界に、橘内さんらが、呆然自失となり、しゃがみこんだ、姉の手から血が滴るナイフを取りあげ、取り押さえているのが見えた。


「ナオ、ごめんね、ごめんね」


姉さんは泣き崩れていた。

これで、良かったのだと、安心した矢先、腹部に激痛が走った。

一樹さんが着ている、白のジャンバーがみるみるうちに、赤くなっていく。


「一樹さん、ごめんね、ジャンバー汚しちゃう」


「こんな時にいう台詞か⁉」


彼は泣いてた。

さっきは、強がって、泣いてない、そういってたのに。


「ナオ!ナオ!救急車、まだか⁉」


一樹さんが、声をあげ、僕の体を揺さぶるけど、どんどん鉛のように重くなっていく。

そして、だんだんと、意識が遠のいていった。

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