第14話

夜八時で、投票が締め切られ、即日、開票作業が始まった。三十分も掛からず、一樹さんの当確が出て、事務所では、早々と万歳三唱が盛大に行われた。一樹さんが、支援者を前に、深々と頭を下げ、当選の挨拶をしている時、出入り口付近が急に騒がしくなった。


人の波を掻き分け、現れたのは・・・。


「姉さん・・・」


五年ぶりに会う姉に対し、不思議と、嬉しい、悲しい、憎い、なんの感情も沸いてこない。


「あんた、誰!?なんで、あたしがもう一人いるの⁉」


千鳥足でふらふらと。虚ろな瞳は、色をなしていない。

顔も青ざめ、髪は、白髪が混じり、艶ひとつない。二十二歳のはずなのに、その姿は、まるで、老婆の様で・・・。

しかも、その手には、ナイフを握り締めていた。


「警備員は、何してる⁉追い出せ」


橘内さんら、周りの人達が、僕と、一樹さんを守る為、姉の前に立ち塞がった。


「あら、一樹、久し振りねぇ。よく、見たら、ねぇ、あたしにそっくり」


げらげらと卑しく笑う姉。

その視線は、僕へと向けられる。


「あら随分、若いの娘なのねぇ。あんた、知ってる⁉一樹ねぇ」


「止めろ」


一樹さんが声を荒げる。


「どうしようもない、マザコンのインポなのよ」


姉さんの言葉に、一樹さんは、苦虫を潰すような表情を浮かべてる。

何も、こんなところで、そこまで言わなくても。彼がかわいそう。いくら、夫婦でも、言っていい事と、悪いことがあるはず。


橘内さんと、一樹さんの手を払い、姉の前へ歩み出た。キツいお酒の匂いに眩暈を覚えながら、姉と対峙する。


「本当に、僕が誰だか分からない⁉」


彼女は、微動だにしない。

いくら、女の格好をしてても、普通は気がつくはずなのに。

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