第12話

そして、迎えた投票日当日ーー


午前中店を手伝い、お昼過ぎに橘内さんが迎えに来てくれて、そのまま藤さんの美容室へ。


「これを着るようにって」


藤さんから渡されたのは、ネイビーブルーの、フロントボタンの半袖のワンピースと、選挙用の白のジャンバー。


「これ、ですか?」


「まぁ、嫌なのは分かるけど、半日の我慢だから」


「・・・」


今更、なんで、引き受けたんだろう、そんな事を思いつつも、一樹さんの為、そう自分に言い聞かせて、゛姉゛になった。


事務所では、支援者が徐々に集まりだし、お茶だしをしながら、挨拶をして回った。

一樹さんとは、なかなか話す機会がなく、あっという間に夕方に。


「早織さん、今のうち、奥で少し休んで下さい」


橘内さんに声を掛けられ、なんら疑いもせず、彼の後ろに付いていった。

四帖半ほどの広さに、ベットが一つ。


「一樹さん、実家には泊りにくいようで、ここで寝泊まりしていたんです。。シーツは交換してありますから、横になって下さい」


「すみません」


橘内さんにお礼を言って、言われるままに、ジャンバーを渡した。


「か、一樹さん!」


橘内さんの後ろから彼が急に現れ、驚いた。


「びっくりさせないで下さい。寿命が縮むかと思った」


「そんなに驚かなくてもいいだろ。少し話しがしたい」


一樹さんに手を引っ張られ、ベットに並んで腰を下ろした。


「橘内、十分間は夫婦の時間だ。誰も通すな」


「分かりました」


橘内さんは頭を下げ、部屋から出ていった。

ん⁉夫婦の時間って⁉

話しするだけじゃないの⁉


「あ、あの、一樹さん!?」


「・・・」


彼は何も言わず、無言のまま、その薄い口唇を、僕の唇に押し付けてきた。


ん!ん!ん!!!

息、出来ない。

く、苦しい!!


手をグーにして、彼の胸を押した。


「僕は、姉じゃない」


離れ隙に、ぜいぜいと息を吐きながら、ありったけの声で叫んだ。


「わかってるよ、ナオだろ⁉」


耳元で、低い声で囁かれ、ねっとりと舐められ、背筋が、ぞぉーーーーとなった。


「一樹さん、何か、変だよ⁉」


「変にさせるのは、ナオの方だろ⁉」


そんな勝手な。

そんな事を思っているうち、ベットに押し倒されていた。

両手を、ワンピースのボタンに掛けたと思ったら、そのまま、左右対称に引っ張られ、ブチブチと、ボタンが全部飛んでいった。

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