第7話

「か、一樹さん、ちょっと」


「その格好している間は俺の妻だろ?」


悪びれる素振りを見せず、不敵な笑みを浮かべる彼に、抵抗すら出来ない。


「このまま、俺のになる?」


冗談かと思ったけど、見上げた彼の顔は、真剣そのもので。


「あの佳名さんが誉めてた。色んな意味で、年の割りにはしっかりしてるって。佳名さんって、母親、父の後妻ね」


先に注文してあったビーフシチューと、ハンーバー グがテーブルに運ばれてきた。美味しそうな匂いが鼻を擽る。

考えてみたら、お昼抜きで、ぐぐ~ぅと、派手にお腹が鳴った。恥ずかしくて、俯くと、一樹さんが声を立てて笑いだし、呆れたように僕達を見ていた橘内さんまで笑い始めた。


「海斗、ごめん、遅くなって」


藤さんの美容室で、元の自分に戻り、自宅に帰ると、玄関先で仁王立ちの海斗と鉢合わせになった。かなり怒ってる。


「すごく、仲良さそうに映ってたよ。テレビに」


「ごめんなさい」


「もしかして、夫婦の振りじゃなくて、本当の夫婦になった!?」


「どういう意味なの⁉って・・・い、痛い!」


海斗に手首を握られ、そのまま自分の部屋に。入るなり鍵をガチャと閉められた。


「脱げよ全部。あいつとやましい事してないんだったら。出来るよな⁉」


ベットに腰を下ろした海斗は、獰猛な獣のような眼差しを向けてきた。

いつも優しく、甘えてくる彼はもうどこにもいない。


釦に手を掛け、シャツを脱ぎ、下着を脱いで・・・なんでだろう、汗が滝のように流れてくる。ズボンがベタベタ肌とにまとわりついて、なかなか脱げない。


「・・・海斗⁉」


脇の下に、彼の手が差し入れられ、そのまま、抱き寄せられた。


「みっともないよな、ごめん」


「なんで、なんで」


腕の中の、彼の肩が小さく震えていて、戸惑った。もしかして、泣いてる⁉


「寂しくて、寂しくて、死ぬかと思った。このまま、ナオが帰ってこなかったら、どうしよう、そればかり考えて、おかしくなりそうだった」


「海斗・・・ごめんね」


大袈裟だな、僕の家はここだもの。

そう言おうとしたけど、そんな雰囲気じゃなくて。ごめんを繰り返した。



「ナオ、しよ」


ねだるように、甘えるように、下腹をくんくんして。


「え?何を?」


いまいち理解出来なくて、聞き返した。


「だから・・・エッチ」


海斗にまで、真剣な眼差しを向けられ。

ようやく、意味の意味を理解し、顔から火が出そうになった。


「エ、エッチって?ぼ、僕、男だよ」


出来るわけないでしょう。

ぶんぶんと頭を振った。

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