第5話

「おっ、いい香り。何ケータリングしたんだ!?」


槙さんが、起きてきた。


「お前、誰!?」


って、さっき、会ったのに。


「早織さんの弟さんです」


橘内さんにそう言われ、


「あっ、そうだった。すまない、忘れてた」


頭を掻きながら、ごめん、と一言。


「何、これ、お前作ったの?」


テーブルの上には、オムライスと、ハンバーグ。橘内さんに聞いたら、中身はお子様なので、オムライス、ハンバーグ、カレー辺りが無難なのでは、そう教えて貰った。ちなみに、人参とピーマン、生野菜は苦手。


じき、三十になるのに、困ったものですって橘内さん嘆いていた。


「へぇー」


そんなに驚かなくても。


「槙さん、あと、サラダと、スープあります」


「野菜、苦手」


「でも、少しは食べないと」


「なら少し」


槙さんが、椅子に腰を下ろす。


「えっと、名前・・・なんだっけ!?」


「はぁ!?」


思わず声に出して、慌てて手で押さえた。


「皆木ナオです。何回も教えましたよね⁉いい加減覚えてください。片付けから、食事の用意までして貰って」


僕の代わりに、橘内さんが怒ってくれた。

食事が終わると、ソファーへ戻りごろんと寝転がる槙さん。

そんな彼を眺めながら、食器を洗ってると、


「ナオ」


名前を呼ばれた気がして。

彼の所に行くと、ぐいっと手を引っ張られ、ソファーに倒れ込んだ。

ちょっと!

なんでこうなるの!

しかも橘内さんじろじろ見てるし。


「槙さん!」


じたばたと胸の中でもがくと むぎゅーと抱き締められた。

あ、暑苦しい。


「気持ちいい。これなら寝れる」


って。ちょっと!

あと、背中に手を入れないでくすぐったいから。


「槙さん!」


「一樹、だよ。一樹」


あんだけ海斗に念押されたのに。

ごめんなさい、ちゃんと守れなかった。半泣き状態の僕に橘内さんが、


「寂しがりやの甘えん坊なんですよ一樹さんは。家庭環境が特殊で、愛情に飢えたまま大きくなったので。だから、幾つになっても、お子様なんです。まぁ、諦めて抱き枕になってください」


て、そんなオチあり!?


「朝早いから、寝るぞ」


「槙さん・・・じゃなかった、一樹さん、まだ、八時前だよ!」


「いいの、いいの」


良くない!

心の叫びは、跡形もなく一樹さんの腕の中へ消えていった。

もう、と言いかけて、その穏やかな寝顔を見上げれば、何故か心がズキンっと疼き、やはり、彼をほっとけないと思う自分がいて、正直戸惑った。

海斗、ごめん。

一樹さんにひかれてはいけないのに、なんで、こんなにひかれるのか、気持ちが揺れ動くのか。訳がわからない。

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