第2話

玄関を開けると、おじさんたちがそこに立っていて、びっくりした。


「ナオ、お客さんだ」


「お客さん?僕に?」


おばさんの影から、長身の男性がぬっと姿を現した。

薄暗くて、顔までははっきりとはわからなかったけれど、おじさん達に続いて、その男性が家の中に入ってきた。

彼が僕らを見おろした、その一瞬、空気が強張った。

手が繋がったままーーだったから、かもしれない。慌てて、手をふりほどいた。


「変に思われたよ、きっと」


「変に思われても、俺は構わない」


いつもと何か違う海斗に戸惑いながら、一緒にリビングに向かった。


「前の衆議院議員、槙芳樹氏の秘書の、橘内さん。ナオに頼みがあるそうだ」


やぼったい黒縁メガネの、卵形の顔をした、人当たりの良さそうな男性が軽く会釈して、挨拶をしてくれた。


「貴方のお姉さん、早織さんは、芳樹氏のご息子、一樹さんと結婚したのですが、いずれ分かり事ですので、正直に申し上げますが、元彼と駆け落ちしまして・・・」


「・・・」


姉の消息すら知らなくて。

ううん、本音は、知りたくもなかった。

そう長くはなかった病床の母を見捨てて、母親の恋人と駆け落ちした姉の事など。


「僕には、姉はいません」


きっぱりと橘内さんに言った。


「お姉さんには間違いないでしょう⁉」


色々調べて、僕に辿り着いたんだ。返す言葉が見つからない。


「で、用件は?」


海斗が声を荒げる。


「一樹さん、二日後に公示日を迎える衆議院選挙に立候補します。今までいた早織さんがいないとなると、変な憶測をよんだりして、イメージダウンも免れません。なので、ナオさんに、早織さんの身代わりをお願いしたい」


「ナオに、身代わり!?冗談だろ」


「身内の恥を晒すような事、冗談言えますか⁉勿論、それ相応の見返りはさせて頂きます」


有無を言わせぬ、射ぬくような鋭い視線を向けられた。


「さっきも言いました。僕には姉はいません。

すみませんが、お帰り下さい」


男性に頭を下げ、おじさん達にも謝った。





お願いだから、そっとしておいて欲しい。

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