第64話

稚沙ちさはふと目を閉じて考えてみる。

前世での相手は一体どんな人だったのだろう。


彼女が思うに、とても優しく自分に微笑みかけてくれる、何となくそんな人のような気がしてきた。


(でもそんな人、今の私のまわりには全く心当たりがない。

まだ相手に出会ってないのか、それとも単に自分が気付いてないだけ?)


それから稚沙は、ふと目をあける。

相手が誰かは分からないが、それでもとてもすっきりとした気分になった。


「妹子殿、素敵なお話をして下さって、本当に有難うございます。これで私も決心がつきました。

これからは、自分の本当の相手となる人を見つけたいと思います!」


それを聞いた小野妹子おののいもこもとても安心したようで、思わず胸をなでおろした。


「えぇ、そうですね。あなたのことを本当に必要とする人は、きっとこれから現れるはずです。

もしかすると私は、今日この話しをするために、あなたと出会ったのかもしれませんね」


「そうですね。私も何となくそんな気がします!」


稚沙も少し嬉しくなって、そう返事をする。今まで抱えていた気持ちから解放され、また心新たに頑張っていけそうな気がしてきた。


(でもそのためには、もっと自分自身が頑張って成長しなきゃいけない。

今度こそ相手に振り向いてもらうためにも)



「では、私はそろそろ失礼させて頂きます。まだやり残していることもあるので」


彼はそういってから、そのまま立ち上がった。


宴が終わったといっても、恐らく彼自身の客人への対応はまだ続いているはずだ。

今はちょうど少し休憩で、ここにやってきたのだろう。


「はい、今日は本当に有り難うございました」


稚沙も彼につられて立ち上がると、そう感謝の言葉を彼に伝える。


「こちらこそ、今日あなたとこうやってお話ができて、本当に良かったです。ではまた別の機会にお会いしましょう」


小野妹子はそう稚沙にいうと、そのままその場を去っていった。


(私も1日も早く立派な女官になって、そして運命の人と出会いたい……でもその相手って、いつ現れるんだろう?早く出会えると良いな)


彼女はそんなことを考えながら、自分も住居に戻ることにした。

辺りはすっかり夕方になっている。うかうかしていると直ぐに夜になってしまうので、急いで戻った方が良さそうだ。


こうして、彼女もまた自身の住居へと戻っていった。

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