星の約束

第45話

そしていよいよ、厩戸皇子うまやどのみことの待ち合わせの時間となった。


稚沙ちさは彼にいわれていた通り、門の外に出た所で、本人が来るのを今か今かと待っていた。


「うーん、少し早く来てしまったかな。皇子の為にと思って仕事頑張っていたら、思いのほか早く終わってしまったのよね」


彼女は今日の自身の仕事ぶりを思い返す。

普段からこれだけ打ち込められたら、さぞ順調に仕事をこなせるだろうと。


(私もやれば出来るってことね!今日はこのことも厩戸皇子にいってみよう。皇子もきっと褒めてくれるに違いないもの)


稚沙はそんな事を脳裏に浮かべながら、厩戸皇子の到着を待つことにした。あとは無事に彼と会えることを願うばかりである。



それからさらに時間がたち、周りが徐々に暗くなりだしてきていた。


(遅いな。もう待ち合わせの時間帯になってるのに……)


宮の人達の気配も段々と少なくなっていく。そして辺りもすっかり静まりかえってしまっていた。


「皇子遅いな。もしかして今日聞いた話のように、斑鳩宮いかるがのみやで何かあったの?」


稚沙はそう思うと、だんだんと不安になってきた。このまま夜になれば一人ではよう動けなくなってしまう。


「それとも斑鳩宮に寄ったので、少し遅れてるのかな?」


そしていよいよ、辺りが夜の暗闇に変わり始める頃合いになっていた。だが一向に厩戸皇子はこの場に現れない。


稚沙はそんな中、一人でポツンとその場に立っていた。そして酷く心細くなってしまい、少し泣きそうにもなってくる。


(う、厩戸皇子……)



そんな時である。急に稚沙に誰かが声をかけてきた。


「おい、お嬢ちゃん、どうしたんだ?」


彼女は思わず、自分に声をかけてきた人物に目を向ける。そこには数名の男たちが立っていた。

余り見かけない人達だったので、遠方から小墾田宮おはりだのみやに何か用事でやってきた人達なのだろうか。

だが稚沙が見るに、少しガラの悪そうな男達だった。


(やだ、どうしよう。この人達ちょっと怖い……)


「ちょっと、人を待ってますので」


だがその男達はそんな不安な稚沙をよそに、一歩一歩と彼女に近寄ってくる。


そんな彼らを目にし、彼女は思わず恐怖を感じて一歩後ろに下がる。そして自身の体を少し震わせた。


「少し離れたところで、お嬢ちゃんを見ていたが、誰も来る気配がなかった。きっと相手にすっぽかされたんだろう?」


そういって男達は、皆ゲラゲラと笑いだした。


(え、相手にすっぽかされた?)


「なら俺達と一緒に行かないか?このままだと夜になって、どこかの悪いヤツらに襲われるぞ」


そういった男が稚沙の前に出てきて、いきなり彼女の腕を掴んだ。


「まぁ、悪いようにしない。大人しく俺達についてくるんだ!」


稚沙の不安もいよいよ限界を越え、その瞬間に彼女の目からは涙が流れてきた。


(厩戸皇子、お願い、助けてー!!)



その瞬間である。


「おい!その子から離れろ!!」


いきなり稚沙とその男達の後ろから、怒鳴り声が聞こえた。

稚沙は驚いてその人物を見ると、そこには椋毘登くらひとが立っていた。

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