第18話

 その後2人が倉庫にやってくると、どうやら宮人達が数名で、倉庫の片付けを始めていたようだ。


 その中に古麻もいたので、稚沙は彼女に話しかける。


古麻こま、遅くなってごめんなさい!その後は大丈夫?」


 古麻は稚沙の声に気が付くと、彼女の元に急いでやってきた。


「もう、稚沙。あなたいきなり走ってどこかに行って。一体何が……」


 古麻はふと稚沙の横にいる椋毘登くらひとに、思わず目をやる。

 だが彼が誰なのかは知らないらしく、少し不思議そうにして彼を見る。



「突然で、本当に申し訳ない。俺は蘇我椋毘登そがのくらひと蘇我馬子そがのうまこの甥にあたる者です。

 今日は叔父の代理で小墾田宮おはりだのみやにきてました」


 椋毘登は古麻の前で急に愛想よくなり、彼女にそう挨拶をする。


「それで先ほど俺がこの近くを歩いているのを、彼女に見られていたようです。なのでその時のことを聞きたいと、彼女にいわたもので」


「まぁ、稚沙、それで急にここから走って行ってしまったのね」


 古麻は椋毘登の話しを聞き、とりあえず彼女の行動には納得出来たようだ。


「それで俺自身は、特に怪しい人影は見ませんでした。

 ただこの件がちょっと気になり、それで彼女にお願いして、倉庫まで連れて来てもらったという訳です」


 そういって彼は、ふと稚沙に目を向ける。


(これは私の行動も、旨く誤魔化してくれたってこと?)


 稚沙はそれを聞いて、彼の頭の回転の早さにとても感心してしまった。


「まぁ、そうでしたの。でも蘇我馬子様のお身内の方に、このような場面を見せてしまい、本当に申し訳ないわ」


 古麻から見ても、蘇我一族の彼の方が自身よりも身分が高い。しかも彼は蘇我馬子の甥にあたる人物である。


 そんな古麻を見た蘇我椋毘登は、少し彼女に歩み寄ってきた。


「いえ、あなたの方こそ、こんな場面に遭遇してさぞ驚かれたでしょうね」


 椋毘登は古麻にとても優しい口調でそう話した。


 彼は見た目は割りと良い青年だ。そんな彼に優しくいわれたため、古麻は少し顔を赤くした。


(この人、人当たりだけは相当良い……)


 稚沙は彼のそんな変貌を、何ともいえない気持ちで見ていた。


 それから彼は稚沙に向き直っていった。


「じゃあ、稚沙。中には入らないから、外から少し中を覗かせてくれないか?」


 稚沙もそれぐらいなら大丈夫だろうと思い「分かった」といって、彼を倉庫の入り口まで案内する。


 それから彼は興味深く倉庫の中を覗く。


 倉庫内は片付けが始まっているので、最初の時よりも今はだいぶ綺麗になっていた。


「なる程、この倉庫にはこのような物が色々と置かれてあるのか」


 彼も炊屋姫の倉庫を見るなんてことは早々出来るものではない。なのでとても関心しながら、中を見ているみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る