倉庫の異変

第16話

 そして彼女が倉庫にたどり着くと、中から1人の娘がいきなり飛び出してきた。


「え、古麻こま?」


 古麻とは、稚沙と同じで、ここ小墾田宮おはりだのみやに使えている女官の1人だ。

 歳は稚沙より2歳年上の16歳で、彼女は稚沙からすれば一番歳が近い女官でもある。


 古麻と呼ばれたその女官の娘は、倉庫から出てくるなり、稚沙に突然飛びついてくる。


 そして彼女は少し早口になりながら、稚沙に一気に話しだした。


「ち、稚沙、大変なの!さっき倉庫に入ったら、中が誰かに荒らされてたわ!!」


「え、倉庫が?」


 それを聞いた稚沙は、年上の古麻のこの慌てぶりを目にし、きっと彼女がいっているのは本当なのだろうと思った。


 そして自分も倉庫の中を見てみることにした。


 すると古麻のいうとおり、木簡やら珍しい書物、置物や布物など、色々な物が派手に散らかっていた。


「本当だわ。朝はこんな話出てなかったし……一体誰が何の為に?」


 この倉庫は炊屋姫かしきやひめの所有の倉庫である。なのでこの宮の限られた者しか普段は入らない所だ。


「私もさっき、この倉庫にきてみたらこの有り様で……ひとまず何か貴重な物が盗まれた形跡は無いと思うのだけど」


 古麻はこの自体に、酷く動揺しているようだった。


「古麻が別に悪い訳でもないと思うし、とりあえず炊屋姫様にお伝えはしないと」


 稚沙はとりあえず、古麻と2人でこの現状を炊屋姫に伝えるべきだと考える。


 だが古麻はかなり動揺しているようなので、変わりに自分が説明した方が良いかもしれない。


(でも犯人は、いつきて逃げたのかしら?私がここにくる時も、怪しい人影なんてなかったのに)


 その時である。彼女の脳裏にふと、先ほど見かけた蘇我椋毘登そがのくらひとのことが浮んだ。


「もしかしたら……彼が」


 稚沙は急に思い立って「ごめん、古麻!私ちょっと気になる人が浮かんだから、その人の所に行ってくる!」というと、直ぐさまその場を走り出していった。


「え、ち、ちょっと稚沙!」


 古麻はそんな彼女のことを何が何だか分からないまま、呆然と眺めていた。




 その後稚沙は、あちこちを走り回って必死で蘇我椋毘登を探す。


(あの人なら倉庫を荒らすなんてこと、きっと難なく出来るはず。

 ただそんなことをする理由は分からないけど……)


 稚沙は蘇我椋毘登が、この倉庫荒らしの犯人だと睨んだ。

 彼ならそんなことをしても、平然としてその後も宮の中を歩いてまわれるだろう。

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