第56話

「はぁー何とかなりそうね」


男の子は少し水を飲んでしまったようで、少しゲホゲホしている。


そして「お姉ちゃん、有り難う……」と震えながら言った。

彼も急に川に流されて、相当焦っていたようだ。


そして韓媛からひめも陸地に上がろうとした時だった。彼女の着てる服が水で重さを増し、中々上手く陸地に上がれない。


それを見た男の子も、どうしたら良いか分からずに、困ってしまう。


それでも何とか踏ん張って陸地に上がろうとした際である。彼女は思わず滑ってしまい、また川の中に戻されてしまった。


(しまった、早く陸地に戻らないと!)


しかし気が付くと、先程よりもさらに水の深い所に来てしまっている。

また冷たい水の中を必死で泳いでいたので、体が冷え、体力も削られていく。


そのために彼女は思うように泳げなくなってきた。さらに水も飲んでしまい、だんだん息もしずらくなってくる。



その頃になって、ようやく大泊瀬皇子おおはつせのおうじ達がその場にたどり着く。

そして彼は川の中にいる韓媛を見てとても慌てた。


そんな彼女を助ける為、大泊瀬皇子はすぐさま川の中に飛び込む。

そして泳いで韓媛の元へと向かった。



一方韓媛の方はだんだんと意識が曖昧になっていき、そのまま意識を失ってしまいそうになっていた。

するとどこからか「韓媛ー!!」と自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


(この声は誰、大泊瀬皇子?)



大泊瀬皇子は無事に韓媛の元にたどり着くことができた。だが瞬間に韓媛は意識を失ってしまう。


その後2人はさらに流されていき、最初にいた所よりも、かなり遠くまで来てしまった。


大泊瀬皇子は周りを見渡して、何とか上がれそうな場所を見つける。そして韓媛を抱いたままその場所に向かい、ようやく無事に陸に上がることができた。



それから彼は韓媛をその場に横たわらせると、彼女の名を必死で呼ぶ。


「おい、韓媛、しっかりしろ!!」


だが彼女はいっこうに目を覚まさない。恐らく水もかなり飲んでいるはずだ。


大泊瀬皇子は彼女の心臓に耳を当ててみる。だが心臓の音が上手く聞こえてこない。

もしかすると呼吸も止まっている可能性がある。


「う、嘘だろ……」


大泊瀬皇子はかなり焦った。このままだと彼女は死んでしまう。


「お前を死なせるなんて、絶対にさせない!!」


それから彼は思いっきり息を吸い、彼女に口付けて息を送り続けた。



(あれ、何かしら。何か暖かいものを感じる)


すると韓媛は、少し意識が戻ってきた。


そしていきなり「ゲホゲホ」と言って、彼女は飲んだ水をその場に吐き出した。


そしてゆっくりと彼女は目を開ける。


すると彼女の目の前には、大泊瀬皇子の顔があった。だが、彼はひどく泣きそうな表情をしている。


「お、大泊瀬皇子……」


韓媛はゆっくりと小さな声で、彼の名を呼んだ。

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