大草香皇子の悲運

第47話

こうして穴穂大王あなほのおおきみは、大泊瀬皇子おおはつせのおうじの同意を得て、彼の妃に草香幡梭姫くさかのはたびひめを希望する事にした。


そこで、草香幡梭姫の兄にあたる大草香皇子おおくさかのおうじの許可を得るため、彼の元に根使主ねのおみを遣わす。


大王からの指示を受けた根使主は、早速大草香皇子の元へと向かう事にした。


「草香幡梭姫は、先の大王の皇女だ。今まで中々嫁がせなかった姫だけに、そう上手く行くのだろうか」


根使主は大草香皇子の元へ馬で向かっている道中、そんな事を考えていた。

だが今回の件は、穴穂大王に信頼されての事なので、最善を尽くすほかない。


そして、いよいよ大草香皇子のいる宮にたどり着いた。


すると彼は、そのまま大草香皇子の元へ通される事となった。穴穂大王からの使いと説明したので、直ぐに皇子の元に行かせてもらえるようだ。


そして彼は大草香皇子の前にやって来た。皇子はいたって落ち着いた感じでその場に座っている。


そして皇子の許可をもらった後、彼もその場に座って挨拶をした。


「私は穴穂大王からの使いで来ました、根使主と申します」


彼はそう言うと、大草香皇子の前でお辞儀をした。


「わざわざ、ここまで出向いてもらってご苦労。それで、私に何の用事でしょう?」


そこで根使主はさっそく、穴穂大王からの伝言を伝える事にした。


「はい、実はですね。あなたの妹ぎみである草香幡梭姫を、大王の弟皇子である大泊瀬皇子の妃にしたいと申されてます。それでその許可をいただきたく、私が遣わされた次第です」


大草香皇子はそれまでは落ち着いて聞いていたが、その話しを聞いた途端、とても驚愕する。


「な、何! 草香幡梭姫を大泊瀬皇子の妃になどと!!」


大草香皇子は余りの衝撃に、思わずその場で叫んだ。

そして、何やら一人で急にあれこれと考え出した。


根使主も、そんな大草香皇子の慌てぶりをただただ呆然と眺めていた。


(あの大泊瀬皇子が、草香幡梭姫を妃に望むとは意外だったな。でも、こんな機会はそうそうやって来ないだろう)


「私は今重い病を抱えています。でもそれも寿命だと思う事にしてきました。

ただ妹の草香幡梭姫を残して逝くのが、どうも気がかりで……

そんな中、大泊瀬皇子の妃にして頂けるとは何と有難い事でしょう」


大草香皇子はそう言って、穴穂大王からの申し入れをとても喜んだ。


根使主はその後、今回の経緯や大泊瀬皇子の条件等も説明したが、それも大草香皇子は承諾すると言ってきた。


例え建前上だけの婚姻だとしても、それでも妹を嫁がせずにいるよりは良いだろうと彼は思った。


だが言葉だけでの返事では大変失礼だと思い、すぐさま妹の奉り物を持ってくる事にした。


そして彼は、家宝の【押木玉蘰おしきのたまかずら 】を根使主に見せ、これを献上すると言ってきた。


押木玉蘰とは、この時代の髪飾りで、形の良い木の枝に玉を付けたものである。

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