第48話

根使主ねのおみはその奉り物である押木玉蘰おしきのたまかずらを見て、その余りの見事さにとても感動する。


(これは、何と素晴らしい髪飾りだろう……)


そしてその後、根使主は大草香皇子おおくさかのおうじからの返事と、この奉り物を持って穴穂大王あなほのおおきみの元に向かう事にした。



だが大草香皇子の宮の帰りの道中、彼はひどく考え込んでいた。


(大草香皇子から預かったこの奉り物は本当に見事な髪飾りだ。出来るなら自分の物にしてしまいたい……)


彼は帰りの道中、その事がずっと頭から離れることがなかった。

むしろその思いは、どんどん彼自身の中で膨れ上がっていった。





そしてその後、根使主はいよいよ穴穂大王の元に戻って来た。


「根使主、今回は本当にご苦労だった。それで叔父上は何と言っていたのだ?」


根使主は穴穂大王にそう聞かれて、どうしてもあの奉り物が諦めきれず、それで彼に偽りの事を言ってしまった。


「大草香皇子は勅命には従わず、私に申すに『例え同族であるとは言えど、私の妹をどうして差出すことができましょう』と言ってきました」


それを聞いた穴穂大王は、その場でとても激怒した。


「何だと! 叔父上はそんな事を言ってきたのか!!」


(叔父上のやつ……何て高慢なんだ。俺が大王になった事が、それ程までに気にくわないのか!)


「は、はい。大草香皇子は確かにそうおっしゃられました」


根使主は、そんな穴穂大王の様子を見て恐ろしくなり、思わず体を震わせながらそう答えた。


「叔父上は、俺に対して謀反の心があるやもしれない。よし、それならすぐに兵を送り込んで始末する」


それを聞いた根使主は、余りの事に血の気が一気に引いた。だが今さら本当の事をよう話す事も出来ない。


(まてよ、あそこには中磯皇女なかしのひめみこがいる。彼女はそのまま俺の元に連れてくるか)


彼の脳裏にある案が浮かんだ。

すると彼は少し、不適な笑みを浮かべた。






それから穴穂大王はすぐさま、大草香皇子の宮に兵を遣わす事にした。

そして大草香皇子の家を取り囲み、そのまま攻め殺してしまう。


その際に、大草香皇子に使えていた難波吉師日香蚊なにわのきしのひかか親子は、主人が罪なく殺された事を知る。

そんな父と彼の2人の子供は、殺された皇子の体を抱いてとても悲しんだ。


その後に彼ら親子は、亡き主人の後を追うべく、ためらわず自らの首をはねて一緒に死んでいった。


そんな親子を見た兵たちは、皆とても悲しみ涙を流した。



それから大草香皇子の妃であった中磯皇女は、穴穂大王の皇后としてその後召される事となる。

その際には、中磯皇女と大草香皇子との間に出来た息子の眉輪王まよわのおおきみも一緒であった。


こうして、大草香皇子の悲惨な事件は終わりを遂げる事となる。

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