第42話

こうして大泊瀬皇子おおはつせのおうじは、その後穴穂大王あなほのおおきみの部屋を後にした。


「やはりこのままだと正妃は、皇女になるかもしれない。だが元々俺自身もその覚悟はしていた。豪族の姫を正妃にすると、豪族の権力を強めてしまう可能性があるからな」


彼がそんな事を考えていると、ふと1人の少女の顔が浮かんできた。今も昔も彼が本当に心引かれる女性は1人しかいない。


そんな彼にとって、この婚姻が心から望めるものかと言えば、それは全くの嘘になる。


「俺が大和の皇子でなければ、こんな事をせずに済むのだが。だが皇子でなければ出会う事もなかった。何とも皮肉な運命だな」


(とりあえず、兄上との話しも済んだ事だ。早いところ自分の宮に戻る事にしよう)


雄朝津間大王おあさづまのおおきみが崩御し、穴穂大王が即位した以降、遠飛鳥宮とおつあすかのみやは一旦皇后の忍坂姫おしさかのひめが管理している。


大泊瀬皇子にはまだ他に兄が2人いる。だがこの2人は政り事等に関しては、余り関心を示さない。これも彼からしたら少し気になる所ではあった。


「母上の負担も出来るだけ減らせたら良いのだが、あの2人の兄上は全くもって頼りにならない……」


こうして、大泊瀬皇子は自身が住んでいる遠飛鳥宮に戻る事にした。

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