第41話

そして数日後、大泊瀬皇子おおはつせのおうじ穴穂大王あなほのおおきみのいる石上穴穂宮いそのかみのあなほのみやにやって来た。


「兄上が俺に話しがあると聞いたが、一体何だろうか」


大泊瀬皇子は、穴穂大王が自分に話しがあると聞き、彼の部屋までやってきた。


「あぁ、大泊瀬、お前が来るのを待っていた。とりあえず俺の前に座ってくれ」


穴穂大王にそう言われたので、大泊瀬皇子は彼の前にひとまず座る事にした。

大王の言い方からして、自分に何か頼みたい事でもあるのだろうか。


穴穂大王は大泊瀬皇子が自身の前に座ったのを見て、先日自分が考えていた話しをする事にした。


「実はだな、お前もそろそろ妃を娶ってみてはどうかと考えている。そこで俺の中で色々考えてみたところ、1人候補が浮かんだ」


大泊瀬皇子は、穴穂大王にそう言われて一瞬固まってしまう。


(は、俺に妃だと……)


「兄上、妃なら俺より先に兄上が早く娶るべきでは?」


大泊瀬皇子は思った。確かに自身もまだ妃は娶ってないが、兄の穴穂大王もまだ正式に妃を娶ってはいない。

であれば、自身を優先した方が良いのではと思った。


「まぁ、それはそうだが……お前の場合、早く妃の1人でも娶ればもう少し落ち着きも出て良いかと思ってな」


(それに、俺にはまだ諦めきれていない女性がいる)


穴穂大王には、密かに心に想っている女性がいる。だが相手は、彼にとって今も尚手の届かない人でいる。


「ふん、そう言うものか。それで一体誰を俺に勧める気だ」


大泊瀬皇子は少し目を厳しくさせて、穴穂皇子を見た。


「あぁ、相手は俺達の叔母にあたる草香幡梭姫くさかのはたびひめだ。とりあえず正妃は皇女の方がお前も喜ぶかと思ってな」


それを聞いた大泊瀬皇子は、一瞬とても驚いた表情をした。そしてその後、彼はしばらく黙り込んでしまう。何やら1人で色々と考え込んでいるようだ。


(なる程、草香幡梭姫か……)


そんな大泊瀬皇子の姿を見て、穴穂大王もその場で直ぐに断らないとなると、これは意外に良い返答が来るかもしれないと思った。


そんな穴穂大王が期待を寄せる中、大泊瀬皇子は答えた。


「確かに、正妃を皇女から娶るのは悪くない。それに相手が草香幡梭姫なのも、俺的には好都合だ」


大泊瀬皇子はそうあっさりと回答した。


「そうか、ではこの婚姻の件を大草香皇子おおくさかのおうじに伝えても良いか」


(そうだな。とりあえずこちらの条件も乗せて、その上で叔父上に判断してもらおう)


「あぁ、それで構わない。だが向こうも分かっていると思うが、俺と草香幡梭姫ではわりと年齢が離れている。その点も少し相談した方が良いだろう」


穴穂大王も、もちろんその事は理解している。その上での婚姻なので、あとは大草香皇子と草香幡梭姫の判断に任せる他ない。

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