軽大娘皇女の恋

第34話

軽大娘皇女かるのおおいらつめは自身の部屋にいた。

彼女はこの1週間の間、木梨軽皇子きなしのかるのおうじの事でただただ泣き続けた。彼女自身こんなに泣き続けたのは、恐らく生まれて始めての事であろう。


「お兄様は今頃どうされてるの?もう向こうにつかれたのかしら」


彼女もこれが許されない恋なのは分かっている。でも彼に惹かれていく想いをどうする事も出来なかった。


自分達はたまたま血が繋がっていただけなのだと。


「お兄さま、お会いしたいわ……」


軽大娘皇女が、そんな事を考えている時だった。誰かの足音がこちらに近付いて来ている。


(あら、一体誰かしら?)


彼女がそう考えていると、部屋の前で足音が止まり、外から声が聞こえた。


かるの姉上、俺です、大泊瀬おおはつせです。今中に入っても良いですか」


(え、大泊瀬が?)


軽大娘皇女は、何故弟がここに来たのか、さっぱり理由が分からない。

こんな所に滅多に来ない彼が来たとなると、何か急な用件でも出来たのだろうか。


「大泊瀬一体どうしたの?とりあえず部屋の中に入ってちょうだい」


姉の軽大娘皇女にそう言われたので、大泊瀬皇子はそのまま中に入ってきた。


そして彼の後ろに、もう1人誰かがいる事に軽大娘皇女も気が付いた。

彼女が一体誰だろうと見ると、相手は少し自分の見覚えのある顔だった。


「あ、あなたは、もしかして葛城の韓媛からひめ?」


軽大娘皇女は意外な人物の訪問にとても驚いた。どうして葛城の彼女がここに来たのだろうか。


韓媛は軽大娘皇女に名前を呼ばれたため、軽くお辞儀をして、挨拶した。


「軽大娘皇女、どうもご無沙汰しております。葛城の韓媛です」


軽大娘皇女も予想外の訪問者にとても驚いたが、彼女とは久々の再会だったので、とても嬉しく思った。


「まぁ、韓媛。本当に久しぶりね。お父様は元気にされてるの?」


韓媛は「はい、お陰さまで」と答えて、軽大娘皇女の側にやって来た。


そして、軽大娘皇女に座るように言われたので、大泊瀬皇子と一緒に彼女の前に座った。


「あなたと会えて本当に嬉しいわ。今日はこの宮に泊まって行かれるの?」


軽大娘皇女は、韓媛の訪問ですっかり上機嫌になっていた。


大泊瀬皇子もそんな姉を見て、何はともあれ、今日ここに彼女を連れてきて良かったと思った。


「あぁ、そのつもりだ。姉上が最近塞ぎ込んでいるのを聞いて、彼女が心配して会いたいと俺に言ってきた」


それを聞いた軽大娘皇女は、少し驚きはしたものの、そんな彼女の心遣いにとても感謝した。


「韓媛、それは本当にありがとう。最近はあなたのような若い子と話しをする機会がなかったので、今日は色々と楽しくお話ししてみたいわ」



それからしばらくして、大泊瀬皇子は彼女ら2人で話しをさせた方が良いと思い、一旦部屋を退出する事にした。


その際に「また後で、迎えにくる」とだけ韓媛に伝えた。

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