第35話

それから2人は、それぞれの近況や雑談等をして、会話をとても楽しんだ。


(とりあえず、軽大娘皇女かるのおおいらつめがお元気そうでなによりだわ)


韓媛からひめは、自分と楽しそうに話しをする彼女を見てそう思った。


昨日見た光景だと、軽大娘皇女が木梨軽皇子きなしのかるのおうじの元に会いに行ってからの心中のようだ。そうすると彼女は、この後伊予国いよのくにに行こうとしてるのだろうか。


だが韓媛が見る限り、彼女が周りの目を盗んで皇子に会いに行こうとしている気配は、余り感じられない。


「それにしても、軽大娘皇女がお元気そうで本当に良かったです」


「私も、元気そうなあなたを見れて本当に何よりだわ。大泊瀬おおはつせが最近葛城に度々行っているのは聞いていたの。だからてっきり、弟はあなたに会うために行ってるのだと思ってたわ」


韓媛はそれを聞いてとても驚いた。彼が葛城に来ているのは、父の葛城円かつらぎのつぶらに会うためで、自分はそのついでだ。


だが彼が彼女に会いに来ているのは事実なので、そんな噂がたっていても不思議ではない。


(確かに、はたから見ればそう思われてもおかしくないわ……)


大泊瀬皇子おおはつせのおうじが葛城に来られてるのは父に会うためです。私はきっとそのついでなのでしょう」


韓媛は、とりあえず彼女の誤解は解いておこうと思った。今後さらに変な噂がたって、大泊瀬皇子に迷惑がかかっては申し訳ない。


「まぁ、恐らくはそうなんでしょうけど。でも昔から弟とあなたは仲が良かったから、そう言う可能性もあるのかと思って」


(駄目だわ、軽大娘皇女は完全に私と皇子の仲を疑われてる……)


「軽大娘皇女、皇子と私はそう言う関係ではありません。それに私の相手は、父が探すはずですから」


韓媛もこれは嘘ではないと思うので、とりあえず大泊瀬皇子との関係だけは否定しておきたいと思った。


「まぁ、そうなの。最近葛城の娘が大和に嫁ぐ事が多かったから、当然あなたも大和に嫁ぐものだと思っていたわ」


確かに軽大娘皇女が言っているのは本当だった。過去に葛城の磐之媛いわのひめが大和の大王に嫁いで以降、葛城からは何人もの妃を大和に送り出している。


そして最近、大泊瀬皇子が度々葛城に来ており、自分にも会っているとなれば、普通はそう考えるだろう。


(そ、そうだったわ。もしかするとお父様も、私の嫁ぎ先を大和の皇子にと考えられてるかもしれない……)


韓媛はその事に初めて気が付き、余りの衝撃に言葉を失った。


そんな韓媛を見て、軽大娘皇女は慌てて言った。


「ま、まぁ、それはそれで良いかもと私も思っていただけよ。余り気にしないでね」


軽大娘皇女は、自分の発言で固まってしまった彼女を見て、この件はもう触れないでおこうと思った。


(大泊瀬は、多分その事を分かって葛城に行っているはずだわ。あの子も中々大変そうね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る