第30話

韓媛からひめは部屋に戻ると、試してみたい事があった。


それは前回父親を救ったあの例の剣である。

この剣を使い、木梨軽皇子きなしのかるのおうじ軽大娘皇女かるのおおいらつめを何とか救えないものだろうか。


「今日はそのために、大泊瀬皇子おおはつせのおうじから色々と聞いてたのよね」


韓媛はそう言うと、早速鞘から剣を引き出してみる。今回も特に変わった所はなさそうだ。


(よし、ではやってみましょう)


それから韓媛は剣を強く握った。そして一度深呼吸をし、それから目をつぶって祈り出した。


(どうしても、木梨軽皇子と軽大娘皇女を助けたいの。お願い力を貸して)


するとまた剣が急に熱くなってきた。


そしてまた不思議な光景が見えてきた。そこは外のようで、木が少し茂っている。そしてその先には少し海が見えた。


(ここはどこかしら?)


その場所は、彼女が今まで一度も見た事のない場所だった。


彼女がふと先方の方に目を向けると、そこには2人の若い男女が立っていた。


(あの2人は一体誰?)


その2人をさらによく見てみると、女性の方には見覚えがあった。それはあの軽大娘皇女だ。


(軽大娘皇女がいるなら、となりにいるのは木梨軽皇子かしら?でも彼は今伊予国いよのくににいるはずだわ……)


そんな2人の男女は、互いにしっかりと抱き合っていた。まるで最後の別れをするかのように。


(この2人、本当に互いに愛し合っていたのね)


まともに恋をした事がない韓媛からすれば、そんな2人が少し羨ましく思える。


それから2人は、海の方に顔を向けた。その時になって、韓媛はその先が崖になっている事に気が付く。


そして2人は手を繋いで、そのまま崖のほうに向かって歩き出した。


韓媛はそんな2人を見て、だんだんと嫌な予感がしてきた。


(ち、ちょっと、待って。もしかしてこの2人……)


2人の周りには、変な暗い色の糸のようなものがたくさん巻き付いていた。

これがきっと2人の災いの元なのだろう。


(きっと、この糸を切りさえすれば)


韓媛はそう思うと、その光景の中で思いっきり剣を振った。

しかし何故か2人の糸に剣は届かない。


(もしかして、私が2人の側にいないから切れないの?)


そして2人は崖の側まで来ると、一度お互いの顔を見て、それから一気に崖に身を投じた。


(ま、待って。嫌ーー!!!)


そこで韓媛はハッとして目を開けた。

するとそこは、自身の部屋の中のままだった。


(なんという恐ろしい光景を見てしまったの……)


彼女は思わず身震いがした。


「駄目だわ、まだ災いが切れていない。やはり本人達の側に近づかないと、無理なのかもしれないわ」


だが軽大娘皇女ならまだしも、木梨軽皇子の元に向かう事は、彼女にはよう出来ない。


「それなら、まずは軽大娘皇女の元に行ってみようかしら」


韓媛はとりあえず、一度軽大娘皇女に会ってみる事にした。

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