第29話

大泊瀬皇子おおはつせのおうじも本気で好きな女性が現れたら、きっと変わるのでしょうね」


韓媛からひめは少し大泊瀬皇子をからかうようにして言った。


だが大泊瀬皇子は、そんな彼女の発言を聞いて、とても驚いたような表情をした。そしてひどく言葉に詰まっているようにも見える。


(あら、意外な反応ねぇ?)


「大泊瀬皇子どうかされたの」


韓媛は不思議そうにして彼に言った。

最近の彼はどういう訳か、時々彼女にこんな奇妙な表情を見せてくる。


すると大泊瀬皇子は肩を落とし、少し呆れるような素振りで言った。


「お前は、何も分かってない……」


韓媛は皇子にそう言われ、彼が発する言葉の意味を全く理解出来ないでいた。


(私が何も分かってない? 一体どう言うことかしら)


そもそも韓媛もまだまともに男性を好きになった事はない。もしかすると、何か問題のある発言でもしてしまったのだろうか。


すると皇子は、急に彼女に質問をしてきた。


「それを言うなら、お前はどうなんだ。好きな男でも出来たのか?」


韓媛は、皇子から意外な質問が出てとても驚く。まさか彼からこんな事を聞かれるとは、夢にも思っていなかった。


(まさか、大泊瀬皇子からこんな質問が来るなんて)


余りに意外な質問だったので、彼女も少し動揺しながら答えた。


「えっと、それは特にはないです。それにその辺は、元々お父様にある程度任せようと思ってましたから……」


それを聞いた大泊瀬皇子は、今度は少し落胆したような感じになった。


(駄目だ。これじゃ、全然らちがあかない)


すると彼は、急に何かの意を決したかのようにして、韓媛を真っ直ぐ見つめてきた。


(うん、一体何?)


「韓媛、実は俺……」


大泊瀬皇子がその先を言おうとした丁度その時、遠くから使用人の者の声がした。


「大泊瀬皇子ーー! お持たせして申し訳ありません!! 今丁度、つぶら様がご自宅に戻られました。直ぐにお会い出来るそうです」


それを聞いた大泊瀬皇子は、その場で思いっきり脱力感を露にした。


(何で、よりによってこんな時に……)


「あら、やっとお父様が戻られたのね。大泊瀬皇子が来られてからだいぶ時間が立っていたから、心配していたの……あ、大泊瀬皇子ごめんなさい! お話の途中で」


韓媛はどうも、今は彼より父親の方が気になっていたようだ。


「いや、良い。別に急ぎの話しではないから、また今度にする」


「あら、そうですか。では大泊瀬皇子もお忙しいでしょうから、私も自分の部屋に戻る事にしますね」


こうして、大泊瀬皇子はその後葛城円かつらぎのつぶらの元に行き、韓媛は自分の部屋に戻る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る