葛城にて
第28話
木梨軽皇子が流刑となり、
「
韓媛は、今日葛城に来ていた
「まぁ、それは軽大娘皇女もさぞお心を痛めてる事でしょうね……」
韓媛はそんな彼女が不憫で為らなかった。大事な人が遠くに行ってしまい、それが本人にとってはどれ程辛い事か。
また木梨軽皇子の場合、刑が許されでもしない限り、大和に戻る事もまず難しい。
「姉上には気の毒だが、こればかりはどうしようもない。これは、実の兄妹で道ならぬ恋に落ちてしまった2人の責任だ」
大泊瀬皇子は、特に感情を表す事もなく平然として言った。彼の中では既に気持ちの整理は出来ているのだろう。
それよりも今後の大和がどうなるのか、そちらの方が彼にとっては気になる所である。
「大泊瀬皇子、あなたのお姉様なのよ。もう少し気持ちをいたわって上げないと」
韓媛からしたら同じ女性として、彼女の事が心配でならない。相手が本当に心から好いていた者なら尚更だ。
「まぁその点、母上はまだマシだった。父上が亡くなった時は、凄く乱れていたが、それも今はかなり落ち着いている」
そんな大泊瀬皇子の発言を聞いて、韓媛は「はぁー」とため息をついた。
「それは、皇后がわざと弱音を見せないようにしているだけの事。大王と皇后もお互いとても好きあった仲だったのでしょう?」
大泊瀬皇子も両親の仲の良さは、いつも見ていたので良く知っている。父上が大王に即位する際も、母親の説得があったからだこそだ。
「それはそうだが……それに母上は父上の妃になって以降、父上や大和の事をとても良く考えていたと聞く」
そんな大泊瀬皇子を見て彼女は思った。
どうも彼は、自身の目線で人の色恋ごとを見ているような気がする。
(大泊瀬皇子は、きっとまだ本気で誰かを好きになった事がないのね。ただ私も人の事はいえないけど)
彼の場合、見た目もそれほど悪くはなく、体型もとても男らしい。
普通に考えたら、若い娘が言い寄って来ても、全くおかしくはない。
(大泊瀬皇子は、きっとこの性格が問題なのでしょうね。そこさえ変われば……)
そんな彼を見て韓媛は思う。
大泊瀬皇子の、浮いた話しの1つや2つが全く聞こえて来ないのは、彼のこの少し傲慢な態度が関係しているのだろうと。
女性に対しての、口説き文句の1つでも言えたなら、きっと相手の女性もその気になるだろうに。
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