葛城にて

第28話

木梨軽皇子きなしのかるのおうじの事件については、ここ葛城にも直ぐに伝わる事となる。


木梨軽皇子が流刑となり、伊予国いよのくにへ旅立ってから早1週間が経過していた。


韓媛からひめ軽大娘皇女かるのおおいらつめとは過去に数回会った事があり、そんな彼女は韓媛より6歳年上の20歳になる。


かるの姉上は、木梨軽きなしのかるの兄上が伊予国に行って以降、泣いてばかりいた。だが1週間が経ち、ようよく落ち着いて来た」


韓媛は、今日葛城に来ていた大泊瀬皇子おおはつせのおうじを捕まえて、彼から色々話しを聞き出していた。


「まぁ、それは軽大娘皇女もさぞお心を痛めてる事でしょうね……」


韓媛はそんな彼女が不憫で為らなかった。大事な人が遠くに行ってしまい、それが本人にとってはどれ程辛い事か。


また木梨軽皇子の場合、刑が許されでもしない限り、大和に戻る事もまず難しい。


「姉上には気の毒だが、こればかりはどうしようもない。これは、実の兄妹で道ならぬ恋に落ちてしまった2人の責任だ」


大泊瀬皇子は、特に感情を表す事もなく平然として言った。彼の中では既に気持ちの整理は出来ているのだろう。


それよりも今後の大和がどうなるのか、そちらの方が彼にとっては気になる所である。


「大泊瀬皇子、あなたのお姉様なのよ。もう少し気持ちをいたわって上げないと」


韓媛からしたら同じ女性として、彼女の事が心配でならない。相手が本当に心から好いていた者なら尚更だ。


「まぁその点、母上はまだマシだった。父上が亡くなった時は、凄く乱れていたが、それも今はかなり落ち着いている」


そんな大泊瀬皇子の発言を聞いて、韓媛は「はぁー」とため息をついた。


「それは、皇后がわざと弱音を見せないようにしているだけの事。大王と皇后もお互いとても好きあった仲だったのでしょう?」


大泊瀬皇子も両親の仲の良さは、いつも見ていたので良く知っている。父上が大王に即位する際も、母親の説得があったからだこそだ。


「それはそうだが……それに母上は父上の妃になって以降、父上や大和の事をとても良く考えていたと聞く」


そんな大泊瀬皇子を見て彼女は思った。

どうも彼は、自身の目線で人の色恋ごとを見ているような気がする。


(大泊瀬皇子は、きっとまだ本気で誰かを好きになった事がないのね。ただ私も人の事はいえないけど)


彼の場合、見た目もそれほど悪くはなく、体型もとても男らしい。

普通に考えたら、若い娘が言い寄って来ても、全くおかしくはない。


(大泊瀬皇子は、きっとこの性格が問題なのでしょうね。そこさえ変われば……)


そんな彼を見て韓媛は思う。

大泊瀬皇子の、浮いた話しの1つや2つが全く聞こえて来ないのは、彼のこの少し傲慢な態度が関係しているのだろうと。


女性に対しての、口説き文句の1つでも言えたなら、きっと相手の女性もその気になるだろうに。

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