第59話

忍坂姫おしさかのひめの本音としては、他の娘の元になんか行って欲しくはない。だが今の話しだと、相手の娘は寝込んでいるらしく、それでその父親は娘に会って欲しいとまで言って来ている。


そこまで言われたら、流石に忍坂姫としても嫌とはよう言えない。


「その村の娘は今寝込んでいるんですよね。もしかすると容態も酷く悪いのかもしれません。であれば、皇子が行ってあげた方が良いのではありませんか」


忍坂姫は辛い表情を余り出さないようにして、雄朝津間皇子おあさづまのおうじにそう言った。



雄朝津間皇子はそんな彼女の話しを聞いて、ホッとしたようだ。


「忍坂姫、今回は本当に済まない。とりあえず様子だけ見に行って来るよ。

日田戸祢ひだとねからは急ぎで来て欲しいとの事なので、これから行ってこようと思う。

今日は宮に戻れるかは正直分からない」



そう言って雄朝津間皇子は、再度「本当にごめん!」と言ってそのまま部屋を出て行った。


忍坂姫の横にいた市辺皇子いちのへのおうじは、何となく大変なのかなと言った感じでは聞いていた。


雄朝津間皇子が部屋から出ていくと、忍坂姫の目から涙が出てきた。

そしてその場で、彼女は泣き出してしまった。


「忍坂姫~一体どうしたの!?」


市辺皇子は急に彼女が泣き出したので慌てた。

だがどうして彼女が泣いているのかは、6歳の彼にはよう理解する事が出来なかった。


「ううん、市辺皇子大丈夫よ。心配してくれてありがとう」


彼女はそう彼に言った。


その後、忍坂姫は市辺皇子を宮の使用人に任せる事にして、自分の部屋へと戻って行った。


そして部屋に戻ると、彼女はそのまま床に寝転んだ。


(雄朝津間皇子もかなり必死な感じだったわ。相手が寝込んでいるって言ってたから、仕方ないのは分かってるんだけど……でもやっぱりどうしても辛い)


こうして、忍坂姫はそのまま泣き続け、その後泣きつかれたまま眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る