1人の青年の恋

第48話

そして忍坂姫おしさかのひめ一行はようやく会場となる場所にやって来た。

そこは少し小高い場所に設置されていた。


その場には使用人達が先にやって来ていて、食事やお酒等が置かれていた。


そして今日は天気も良く、桜も満開だった。


「わぁ、本当に綺麗な桜ね。今日来て本当に良かったわ」


忍坂姫は余りの桜の綺麗さにとても感動した。

また少し小高い所なので、遠くの方まで割りと見渡す事が出来た。


「まさか、君がそこまで喜ぶとは思っていなかったよ」


忍坂姫の隣に座っている雄朝津間皇子おあさづまのおうじが、彼女にそう言った。

ちなみに忍坂姫の反対側には市辺皇子いちのへのおうじが座っている。


席順に関して言えば。

瑞歯別大王みずはわけのおおきみの右側に雄朝津間皇子がいて、そのさらに隣に忍坂姫と市辺皇子が座っている状態だ。

瑞歯別大王の左側にはまだ誰も座ってはいなかった。


(大王の反対側には誰が座るんだろう?見た感じだと、大王の后は来られてないようだし)



それから暫くして大王の横に1人の男性がやって来た。


「大王、遅くなって済みません」


そう言うなり、その男性は瑞歯別大王の隣に座った。見た目的に、大王と差ほど歳の離れていないぐらいの年齢の男性のようだ。


稚田彦わかたひこ、お前も忙しいのに誘って済まないな」


瑞歯別大王は彼にそうに言った。

そして瑞歯別大王は、彼に忍坂姫を紹介した。


「稚田彦、こっちが稚野毛皇子わかぬけのおうじの皇女の忍坂姫だ」


忍坂姫は急に自分の事が言われたので、慌てて稚田彦に挨拶をした。


「始めまして。稚野毛皇子の娘の忍坂姫と言います」


それを聞いた稚田彦は思わず「あぁ、この方が」と言った。

彼女の事はどうも瑞歯別大王から聞いていたようだった。


「あなたの事は大王から聞いております。私は大王の補佐に携わっている、稚田彦と申します」


そう言って彼は忍坂姫に挨拶をした。


忍坂姫はそんな彼を見て、ふと違和感を感じた。


(何だろう、この人誰かに似ているような?)


忍坂姫は稚田彦の顔をじっと見ながら首を傾げた。

そんな彼女を見て、稚田彦は少し不思議に思った。


「あのう、忍坂姫。どうかされましたか?」


「いえ、あなたの顔、誰かに似ているような気がして……」


忍坂姫は誰だったかなと色々頭の中を巡らせてみた。だが中々該当の人が浮かんでこない。

この稚田彦と言う人は、恐らく今日初めて会っているはずだ。


「忍坂姫、君はずっと息長にいたんだろう?そんな君がどうして大和の人間なんかと知り合うんだ」


雄朝津間皇子も、忍坂姫のそんな突然の発言に少し驚いていた。

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